タクシー最大の敵は、バスでも電車でもなく・・・


交通事故は、もちろん無いに越したことありませんし、30年以上にわたって対人対物事故を一切起こさないで走行されているタクシー運転手さんもいらっしゃいますが、万が一起こしたらどうなってしまうのだろう、というのも気になるところです。

そこでこの記事では、交通事故についての基本的な説明から、もし事故が発生してしまった場合どうなってしまうのかをご紹介していきます。

交通事故の種類

交通事故は、その形態等から様々に分類されていますが、おおまかに分けると下記のとおりになります。

人身事故 = 自他問わず怪我人がいる事故。 ・物損事故 = 自他問わず物が壊れた事故。 ・単独事故 = 電柱等、タクシーより固い公共物にぶつかり、タクシーだけが壊れた事故

そして、単独事故を除く2つについては、ぶつけた・ぶつけられたのはどちらか、という観点からさらに2つずつに分けられます。

第一原因人身事故 = 自分の方がより悪い場合で怪我人がいる事故。追突した場合等。 ・第二原因人身事故 = 相手の方が より悪い場合でけが人がいる事故 。追突された場合等。 ・第一原因物損事故 = 自分の方がより悪い場合で相手の物を壊した事故。 ・第二原因物損事故 = 相手の方が より悪い場合で自分の物を壊された事故 。

なんとなくお察しの通り、加害者的な立場は第一当事者、比較的被害者側といえる方は第二当事者、と呼ばれることになります。ただ、警察の交通捜査係によると、あくまで怪我を負わせた方を加害者とみて、刑事処分と行政処分の上申を図る、とのことですので留意が必要です。

たまに、左車線を走行している一般車両の運転手さんで、右車線からの割り込みに対して、「右から来やがったなコノヤロウ、どうせこっちは二当(第二当事者)だ、えい、ぶつけてやれ!」と物騒な冗談を呟いたりしているのがドライブレコーダーに録音され、YOUTUBE等にアップされていたりしますが、
これでもし本当にぶつけにいった場合、立派な加害者になりうる、ということは覚えておいた方が良いです。

どっちが悪い?過失割合の決定

どっちが第一でどっちが第二か。
どっちの方がより悪いかは、過失割合と呼ばれる百分率で表すのが通例です。

事故の要因が100%揃って交通事故になる、と考えて、そのうち50%以上はこの車のせい、となったら、その運転者が第一当事者、とされます。 中央線のない道路での正面衝突等、お互いどっちもどっちの交通事故は、50%対50%となりますが、これは二人とも50%以上なので、強いていえば二者とも第一当事者になります。

過失割合は、過去の交通事故事例等から、ほぼ自動的に決定されます
発生した交通事故を、判例等のデータベースと照らし合わせ、過去に惹き起こされた最も似ている形態の事故を探し出し、当時解決に至った過失割合を当てはめます。

ちなみに前述の進路変更ですが、基本的には70%で進路変更側が第一となり、第二当事者も30%ほどは事故惹起の責任がある、ということになっています。ぶつけられた方、といっても三割方は悪人なのです。

もし事故を起こしてしまった場合 ~ 示談解決までの道のり

「たいしたことないから」と相手に言われても必ず110に電話しましょう。

交通事故を起こしてしまったら、まず何をすべきか・・・。

タクシー運転手さん本人が無傷もしくは軽症だった場合の話に絞りますが、「どっちが悪い?第一は?俺!?」といったことはどうでもいいので、とにかく何よりも先に怪我人の有無を確認します。順番は、以下がスムーズでしょう。

  1. お客さん
  2. 相手方
  3. その他一般歩行者など

この中で負傷者が1人でもいる場合は、怪我の無い人を待たせ、応急救護をする必要があります。
応急救護の基本は、二種免許を取得する際に学習します。これを怠ると後日、救護義務違反という重たい処分が適用される可能性があり、そうなると運転免許は取り消されます。5年以下の懲役すらあり得ます。

さて、救護をしつつ、110番にかけて警察を呼びます
110番すると、「事件ですか?事故ですか?」と尋ねられるので、「事故です、怪我人がいます」と応えれば、救急車も来てくれます。

勿論、怪我人がいなくても、相手を待たせて110番通報して下さい。
軽微な事故だと相手が事故に気付かず、もしくは「たいしたことないから」等と言って、静止を聞かずに立ち去ってしまうこと「ひき逃げされた」等と、あること無いことを警察に吹き込まれ、やはり免許が無くなる可能性があるからです。110番を無事に終えたら所属営業所に電話をして、指示を仰ぎます。

警察官到着後は、警察の指示に従って行動します。
人身事故の場合は、後日あらためて警察署に呼び出され、詳細な事情聴取をされることとなります。人身が無い場合は、警察官立会いの下、相手方やお客さんと連絡先を交換して、おしまいです。営業所に戻りましょう。

この後は、営業所の事故担当、もしくは会社が契約する任意保険会社に、当事の状況を報告し、沙汰を待ちます。敢えて気が楽になる述べ方をしますと、あとは放っておけば示談まで勝手に進んでいきます

応急措置から営業所への報告まで、最初は天地がひっくり返ったような忙しさですが、その後はほぼノータッチで大丈夫です。
お見舞に行くのは自由でしょう。勿論、死人が出ていたり重篤な後遺症が残った方がいたり、運転行動がよほど悪質であったりした場合は、刑事罰と行政罰に怯える日々を過ごして頂きますが、軽傷事故の場合は、行政処分については悪くても免許停止になるくらいで、刑事訴追はされないことも多いです。

数週間から数ヶ月、もしくは数年後、示談書に署名捺印をするように上司に言われますので、指示に従って判子をつけば、手続きは全て終了となります。

交通事故による処分と求償について

さて、問題はお金です。惹起した事故が判例等に照らし合わせて第一原因だった場合、もしくは第二原因でも相手方が重傷を負っている等、治療費や慰謝料、相手車の修理費等の一部を払う必要がある場合、タクシー運転手本人の費用負担はどうなっているのでしょうか。

大前提を記すと、タクシー運転手の業務中事故についての賠償責任は、全てタクシー会社が背負います。民法715条には、使用者責任というものが記載されています。
従業員が犯した不手際の民事上の責任は、使用者である会社が負担する、といったことが規定されているのです。つまり、被害者の方にお金を払うのは会社です。タクシー運転手ではありません

しかし、交通事故を惹起したこと自体に対しては、会社からの処分があるでしょう。
第二原因の場合はあまり耳にしませんが、第一の場合は企業によって異なりますが、訓戒~懲戒解雇まで、事故の程度によって様々なお咎めがあります。

さらに、求償という制度が襲い掛かってきます。
上述の通り、会社は民法上、相手方の慰謝料その他請求の一切を受け止める責任がありますが、被害者に払った金額の一部、もしくは全部を、なんと当事者に請求することが法的に認められています。
当事者というのは、もちろんタクシー運転手のことです。前述した民法715条の、第3項で規定されています。求償権と呼称されます。

かつて、「売上の80%を給与にします、但しどんな事故でも求償権は全額行使します」という豪快な条件でタクシー運転手を集めようとした会社がありました。
人身事故ともなれば、僅か数週間の治療でも治療費・投薬費・慰謝料で10万円を上回る出費となるのが常識であり、とんでもなくリスキーな条件だということで、よく契約書を読まなかった運転手以外は誰も入社しませんでした
。今もその企業はありますが、さすがに給与体系は変更したようです。

まとめると、交通事故を惹き起こしてしまうと、特に第一原因の場合は、会社から相応の処分と、求償権の行使を受けてしまい、大事故だった場合は、職もお金も失ってしまう可能性があるということです。

安全≧確実>迅速、を新時代の輸送三原則に


タクシー運転手が最も恐れるべき天敵である交通事故ですが、繰り返しますが、入社以来一度も事故を起こさずに年をとり、引退されていく方も少なくありません。

タクシー運転手にご興味がある方は、売上より何より無事故を一番に考えて頂きたく思います。

事故を惹き起こすと、良い悪いに限らず、やらなければいけないことが一気に襲い掛かってきますし、第二当事者となっても、ハンドルを握っている以上、ある程度は責任があるため罰せられる可能性があるということ、そしてさらに第一の場合は、後々になって処分もされるしお金も取られるという、踏んだりけったりの状況に陥る可能性があるということを心にとどめておきましょう。



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