タクシーが事故を起こすとどうなるの?

処分は?罰金は?現役タクシー運転手がお答えします

かなり前の話になってしまいますが、(2019年3月)東京・下落合で東京無線系のタクシーが正面衝突事故を起こし、乗員乗客8名が重軽傷を負う事故が起きました。

その後の報道で、片方のタクシーの乗務員が体調の異変を起こし、操縦不能で突っ込んだとも言われています。

とは言えタクシーによる「正面衝突事案」は、「死亡人身事故」「車両横転事案」などと並び陸運局が定める「重大事案」に位置付けられ、近々双方の会社には陸運局などによる「特別監査」が行われる見通しです。

「特別監査」とは?

行政当局が定める「重大法令違反」を起こした官民機関に対して直接乗り込み、当該業務が正当に行われていたかを調べる事です。

因みにタクシー会社では「運行記録簿」「乗務記録」「乗務員健康診断記録」「車両整備記録」「財務帳簿」などが洗いざらいにチェックされます。もし少しでも違反行為が発覚すれば、次の段階(車両停止処分or法人に対する業務改善命令&当該担当者に対する検挙など)へと移行して行く仕組みとなっています。

では一般の車両と比べてタクシーが事故を起こした場合、行政処分や罰金など民事上の処分はどのように異なるのでしょうか?

皆さんと見て行きたいと思います。

タクシー運転手になる前に知りたい交通事故の話

1.タクシーが事故を起こす確率や割合ってどのくらい?

都内で車を使った仕事をされている方なら、必ず一日一度は見掛けるタクシー絡みの事故。

事実、国交省が年に一度まとめる「自動車運送事業に係る交通事故対策検討会報告書」の内、最新の令和元年の資料(P9)によると、

全国のタクシー車両による事故発生件数

  • 平成21年=23,408件
  • 平成30年=11,954件

と数の面では半分以上減少していることがわかります。
1年前と比較しても貸切バス、その他バスを差し置いてタクシーが最も減少率が高く約9%減少しているのです。

しかし、タクシーのそもそもの事故発生数自体が高い傾向にあります。
資料によると、事故発生数が多いものから順に、トラック、タクシー、バス、乗り合いバス、貸切バスです。タクシーは事故が多い部類に入るのは言うまでもないことですよね。

しかし損害保険会社に居る友人の話を引用すると……実際事故を起こしている車両の殆どが「自家用四輪」や「自家用二輪」集中しているので、データを精査して行けば「自家用」も「タクシー」も事故発生率は大して変わらない…

と言います。

とは言え、自家用四輪&二輪に数字を限定して事故発生率を再計算しても、事故発生率は2%近くへと跳ね上がるもの、タクシーの事故発生率よりは低く「やっぱり」と見られがちです。しかし、タクシーの事故率が高い背景には「タクシー特有の運行形態」があるからだと言われています。

 

2.何故タクシーによる事故が無くならないのか?

上記でも述べてきた通り、タクシーに絡んだ交通事故は一向に無くなる気配を判じさせません
最盛期に比べると半分ですが、でも「どうして?」と疑問に思いませんか?

前章でも述べた通り、ロードサイドのお客を乗せようと躍起になる場合、前後方確認や、乗客サイドにつけた際のハザード点灯(安全確保)をやってないがために起きる「安全運転義務違反」や、酔客が車内で暴れたりする「乗客起因営業妨害」が主だと言われます。

ところが、内勤の事故担当者から、最近の事故データを見せてもらったところ、そうとは言い難い問題が浮かび上がって来ています。

それは…
無線呼出に起因する事故事案(特にスマホ無線に起因)がここ2~3年で、急速に増えて来ているのです。

スマホによるタクシー配車アプリは、日本交通グループの「ジャパンタクシーウォレット(通称ジャパタク)」を始め、km(フルクル)や日の丸&グリーンキャブなどが導入している「MOV」等急速に拡大しています。

そして、その拡大と共に、無線呼び出しに絡んだ事故が、言い難いのですが急速に増えているのです。

kmに居る知人から聞いた話ですが、配車アプリ「フルクル」を昨年末より導入して以降、アプリ経由注文に絡んだ事故が大幅に拡大して問題になっていると聞いています。

実際ジャパタクなどの無線アプリによる配車注文は、タクシーを中心に360度全体から受けられる仕組みになっているのです。

100m後方同一車線からの3分後到着指定!の注文・・・
何ていう無茶な注文が平気で飛んで来ることもあり得るのです。

この無線に反応して早くいかなければと急いだ場合、事故を起こすケースが多いようです。

 

タクシーの転職は転職道.com

3.事故後の処理は?事故った乗務員ってどうなる?次の出番は乗れるの?

では、タクシー乗務員が事故を起こした場合、どの様な処理をするのでしょうか?
事故を起こした乗務員は、まず事故によって人的被害者の有無(人身事故発生の有無)を確認せねばなりません。

ここからは「対人事案(人絡みの事故)」「対物事案(物絡み&車対車)」に分けて説明をします。

※注※自損(いわゆる自爆)事案は、概ね対物事案に含まれているので、ここでは「対物事案」に含めて説明します。

対人事案の場合の初動活動

  1. 事故発生
  2. 被害者救護(相手側・乗客)
  3. 当局へ通報(110番&119番)
  4. 被害者の氏名・搬送先確認
  5. 交通鑑識立会による現場検証
  6. 現場清掃(被害者車両があればレッカー等搬送手続き)
  7. 初期活動終了 タクシー会社の指示を仰ぐ

対人事案で最も気を付けるところは、被害者に対する救護活動です。
後々の示談交渉の中で、乗務員が救護活動をしなかった云々で、後に関連しますが免許停止期間が延長されたり、場合によっては召上げ(免許取り消し)などを食らうケースも多いのです。

また、被害者が負傷していて病院へ運ばれる前に、必ず被害者の氏名・搬送先病院を確認しましょう。立合の警察官に協力をお願いすると、進んでやって貰えます。これは、後々会社の事故担当渉外が、被害者への見舞いを迅速に行えるためです。

そうすれば、後々問題となる乗務員への処分を決める聴取の中で、情状酌量を行って貰えるケースが増えて来るからです。

④のケースで「必ず免許証等で現住所と生年月日を確認してこい」と言われることもあります。これは、会社自体が、対タクシー事故で負傷などを追われた第三者に、入院治療費を迅速に支払う企業保険の特約に入っているからです。
このような補償があるタクシー企業もいくつか存在します。

対物事案の場合の初動活動

  1. 事故発生
  2. 被害物件の状況確認
  3. 被害物件の相手側へ通報(住人・店員又は管理会社)
  4. 当局への通報(110番)
  5. 当局による現場検証
  6. 相手側へ当方連絡先の通知&現場清掃
  7. 終了。タクシー会社の指示を仰ぐ

対物案件で最も気を付けねばならないところは、被害物件の関係者と確実に連絡を取り合える状態にしておく事です。

対物事案では、すぐ目の前に被害者がいるので、詳細情報のやり取りがすぐ出来るのですが、深夜の駐車場やアパートなど関係者とすぐ連絡を取れないケースも出て来るのが対物事案の特徴です。そうしたケースでは、警察に連絡中継のお願いをするのもよいでしょう。

さて、
皆さんが一番気にする問題として「事故をした乗務員は、今後もタクシーに乗り続けられるのか?」があると思います。

事故を起こした乗務員はその後どうなるのか?

事故を起こしたタクシードライバーはどうなるのか…という問いに対する答えですが、実際のところマスコミ沙汰にならない事故なら、大概のケースで乗り続けられます

対物事案の場合、駐車場の壁に衝突したor店の看板を引っ掛けて壊しただのケースがほとんどです。この場合、金銭示談or現状回復で決着が付きます。相手側も、現状回復をしてくれ、加えて精神的賠償をして貰えれば大概矛先を収めます。

ただ、マスコミでデカデカと報じられる「コンビニや個人宅へ突っ込み全壊」と言うケースでは「重大事故案件」として、乗務員の道路交通法や器物損壊に関して訴追が行われるため、逮捕され現場から所轄の警察署へ引っ張られるケースがほとんどです。

その場合、事故当日は警察官の前で缶詰になり、釈放されてからも会社の事故担当の前でお座敷へ上げられ吊るし挙げられるなど、散々な一日を過ごします。

こう言った精神的プレッシャーが掛った状態で、次回出番乗せるのは危険と言う事で、大概の会社では乗せない事になっているそうです。もちろんその後行政処分が発表され、間違いなく地域の簡易裁判所へ呼び出され、処分に関する即決裁判を置けるハメになります。

相手側の被害状況にもよりますが、最悪のケースでは「免許取り消し(免取)」もあり得ますが、大概「90日以上の免許停止(免停)」+「50万円以下の罰金」の判決を受けることになります。

企業によっては、こうした行政処分を見越して「乗務員資格」を召上げて、内勤職員へ異動させるケースもありますが、中小タクシー会社では「売り上げに貢献しない職員は要らない」として、該当する事故を起こした乗務員は「即時解雇」と規定するところも少なくありません

ただ、行政処分の呼び出しが掛かる迄は2~3ヶ月間が空き、その間は事故現場で警察官に免許を没収されなければ「車に乗れます」。ですから、乗っているケースも少なくありません。とは言え、世間の目もありますので乗せないようにする筈です。

対人事案の場合はそうは行きません
例えば、被害者を死亡させたケースでは「業務上過失致死罪」が適用され、現場で逮捕拘留されるケースも少なくありません。被害者が後日収容先で死亡したケースでも、後日逮捕拘留の手続きが執られますので、タクシー乗務員としての業務は一切出来ません。

その後正式裁判を受け、懲役刑or禁固刑などに処せられることが避けられないので、東京四社の一つ「大和自動車交通」が服務規程で死亡事故=解雇と規定されている様に、殆どのタクシー会社では「死亡事故=即解雇」と言う暗黙の了解がなされています。

死亡に至らずとも、入院加療が必要となった被害者が、警察に対して「被害届」を出した時点で「人身事故」扱いにされてしまい、対物の全壊事案同様思い行政罰が待ち受けています。

人身事案の罰金に関しても、即決裁判で決められるケースが多いのですが、大体50~100万が相場の様で、支払えない場合は直ちに刑務所へ収監となります。死亡人身事案の場合、有無を言わさず刑務所行きでしょう。

確かに、対人事案の場合、ご存知の方は多いでしょうが「過失割合」の査定で、相手側にも「過失割合」は発生しますので、一方的に被害者として主張ばかりすれば、保険会社や警察から突っ込まれ、逆に訴追を受けかねないと言うケースもあります。

結論をまとめれば、対人対物に関わらず、死亡事案や対物全損事案でない場合、行政処分の呼び出し迄、一定期間はタクシーに乗り続けられ営業出来ます。ただ、世間体を気にする会社の場合、一定期間降ろして下車教育するケースや、有無を言わさず乗務資格をはく奪して、最悪の場合は諭旨免職にさせるケースも増えていることは、頭に入れておいた方が良いでしょう。

4.事故撲滅に向けたタクシー業界の活動について

これまで述べてきた、悲劇的な事故を無くすため、各タクシー会社では様々な安全運転指導を行っています。
因みに、日本交通では2019年の年明けから、毎月テーマを絞った安全運転指導活動を行っています。

例えば、今月は「右折事故防止強化月間」となっており、右折関連事故を各事業所・業務提携会社でカウントし、少なかった上位事業所を表彰して、福利厚生(例えば年一回の社員旅行)への補助を出して啓蒙活動を進めています。

その他の会社でも、年数回の「安全運転啓蒙期間」を定めて(例えば、「春の交通安全運動」などの期間に併せて)、安全運転への意識付けを行い、無事故乗務員には個別に金一封を贈呈して意識付けを行ったりしています。

一番有名なのは、年末年始に行われる「年末年始安全運転総点検」です。これはタクシーのみならず、鉄道・バス・航空・旅客船舶など旅客輸送に関わる全ての輸送機関が、各関係当局の事前査察を受けながら、安全運航への意識付けを強力に行います。

タクシーセンターの取り組み

タクシーセンターではまた、安全運航に協力した乗務員を特別表彰する制度があり、概ね5・10・15・20・30年の無事故無違反表彰を毎年行っています。

これまでは金一封と、羽田空港への優先入構権が与えられる程度でしたが、2019年4月以降、東京駅八重洲口への優先入構レーンの確保など特典が予定されており、これを目標に頑張って安全運航に取り組もうと意識付けをしようとしているようです。

ただこうした締め上げにも拘らず、収入第一に走るタクシードライバーは後を絶たず、結果として事故が簡単に減らないのは実情です。

5.【おまけ】事故より怖い違反のお話

これまでは、タクシーと事故に関してお話してきましたが、実はタクシー乗務員にとって、事故以上に怖いのは「違反」なのです!

「違反」は「重大事故の前兆」と言われ、更に違反が重なると「免許停止(免停)」となって、タクシー業務が出来なくなります。乗務員にとって、正に死活問題となります。

では「事故より怖い違反の仕組み」とは、どの様なものでしょうか?

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所のHP掲載の交通違反処分点数&罰金一覧

運転免許をお持ちの方ならご存知でしょうが、全く事故・違反が無い状態の運転免許では6点と言う点数を保有しています。タクシー会社の面接で「免許満点?」と聞かれるのは、この事を意味します。

そして、信号無視など違反で検挙されると、取り締まりに当たる警察官や駐車違反取締員(通称ミドリムシ)は、当該摘発事案以外に違法行為を行っていないか必死に見つけようとします。例えば、信号無視をしたタクシードライバーを捕まえた際…

「アンタ、携帯していたでしょ?」

とカマを掛けて来たりします。絶対ないと言い張っても…

「ドラレコ見れば解るんだから、今のうちに言っておいた方がいいよ」

等とわけの解らない話を投掛けられてくることもあります。
これは、取り締まりに当たる警察官にとって「違反点数=収入」と言う構造が成り立っており、何が何でも違反点数を積み上げて収入を増やそうとするのです。

最近は「整備不良車両の摘発」を名目に、地域課の警察官もPC(パトカーの略語)でバンカケし、仲間を呼んで大騒ぎする様な事も効負けられるようになりました。

事故の場合、警察当局は加害者&被害者を守るための行動を取りますが、違反摘発に関しては見方をしてくれません。

これが「違反は事故より怖い」と言われる所以で、「事故は仕方ないが、違反は死んでもするな」と指導するタクシー会社もある程です。

交通事故にも交通違反にも注意が必要

収入より安全運転を優先させましょう

事故に関する話は、参考になったでしょうか?

事故はややこしい関係に巻き込まれるだけでなく、その後の乗務員人生を狂わせてしまうと言えます。

先ほど「事故は仕方ないが、違反は死んでもするな」との言葉を紹介しましたが、「事故は、職業ドライバーのエチケット違反」と考えています。恥ずかしい事はせず、是非気を付けて行きたいものですね。

もしこれからタクシー運転手を目指すのであれば、事故の場合も想定してどのような体制の会社なのかきちんと確認してくださいね。

タクシーの転職は転職道.com



<広告・PR>