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「やればやるだけ!」がもう怪しい
こんにちは、準大手タクシー会社の元課長補佐、野の字です。タクシー業界には「実力次第でいくらでも稼げる!」みたいなイメージを持っている人も多いですよね。そして、そのイメージを鵜呑みにして業界に入ってくる人も少なくはありません。
実際に給料の金額を決めるのは歩合なのですが、その歩合について詳しく知らないとタクシー業界に入ってから「思っていたのと違う」と考えてしまうことも……。
ここでは、歩合を中心にしたタクシー業界で一般的な賃金体系について、適切にご紹介していきます。これからタクシー業界への参入を考えている人は、まず歩合を中心にした独自の給料システムについて知ってください。そうすれば、自分に合う業界なのかどうかもわかるでしょう。
タクシー業界で発達した様々な歩合と賃金体系
タクシー会社は数多くありますが、平均的なタクシー会社に限定すれば賃金の計算方法は次の3つに絞られます。
- A型賃金(固定給)
- B型賃金(フルコミッションの歩合制)
- AB型賃金(最低保証がある歩合制)
なんだか血液型のようですが、O型やRH-はありません。この3つです。
何故このように分かれてしまったのか、歴史的な経緯は定かではありませんが、わかり易く順番に詳しくみていきましょう。
東京でA型(固定給型)は皆無!?
A型賃金は、いわゆる一般のサラリーマンと同じ、ほぼ固定給のシステムです。ドライバーには毎月一定の基本給があり、賞与も出ます。基本給は勤続年数によって上昇しますし、成績が悪くても欠勤等なく所定労働時間を勤め上げてさえいれば、最低限の基本給も年収も保証されている、といった賃金形態です。
一般の方には非常に受け入れられ易いシステムかと思われますが、特に都心部においてA型は全くといっていいほど普及していません。
A型賃金の場合、高い売上を達成すれば手当金が出ることもありますが、そんなに頑張らなくても、独身なら暮らしていける程度の給料が貰えます。他方、養う家族が多いからと一生懸命頑張っても、その月の給与がせいぜい2万円割増しになる程度となっています。歩合がないと仕事を頑張った割には率の悪い見返りしか得られません。
タクシー業界特有の「やればやっただけ儲かる」というイメージからは反する賃金形態ですが、「タクシードライバーにはなりたいけれど、そこまで仕事を頑張りたくはない」という人にはおすすめできる賃金形態です。 歩合が収入にさほど影響を与えないので月々の収入……つまり給料や年収も計算でき、安定した生活を送りやすいでしょう。
ただし、タクシーはその車両自体が1つの店舗と考える向きもあります。仕事への努力を惜しまずに好成績を上げる店舗とまったく仕事をやる気がない店舗……「両店舗の店長の収入がほぼ同じというのは、如何なものか?」と考えるタクシー会社も多く、タクシー利用客が多い都市部ではあまり歓迎されないようです。
法人タクシー運転手という職業は、サラリーマンではあるものの、ある程度裁量権が認められているため、むしろ個人事業主に近い存在。このあたりの感覚は社会経験のない新卒社員には、伝わりにくいかもしれません。
ただし、都心である新宿や渋谷とは違い、地方のタクシー会社の場合は営業できる場所が駅や病院の周辺などに限られていて、どう立ち回っても他のタクシー運転手と売上に差が出にくいケースも。このような地域では、タクシー会社が安定した収入をドライバーに約束するためにA型賃金を採用している企業もあります。地方のタクシー会社ならば、歩合にこだわるよりも、ドライバー達が給料面に不安を感じにくいA型賃金のほうが良いのかもしれませんね。
実力勝負!B型は天国と地獄!?
B型賃金は、前述のA型が抱える大きな欠点、「仕事を頑張っても皆年収が同じ、じゃあどうでもいいや」となる心理状態を解決させるものです。単純にタクシー運転手が稼いだ売上の何割かを歩合とし、それを給料にしてドライバーに払い込む、という制度なのがポイントです。
この賃金体系が持つ最大の利点は、なんといっても、努力して仕事を頑張った分が歩合によって給与へダイレクトに反映される、ということ。「月収を伸ばすために頑張りたい」という仕事への意欲があるタクシードライバーには、このB型賃金が合っているでしょう。タクシードライバーには男性も女性も関係ないため、女性のタクシードライバーでも頑張り次第では高給になれます。
ただし、大きなデメリットも存在しています。それは、賞与という概念がないということと、仕事を頑張れないと地獄を見る、ということ。
程度の差こそあるでしょうが、人間誰しも怪我をしますし、病気にもなります。それによってあまり出社できず、仕事で売上をあげられなかった、という月もあるでしょう。売上げがなければ当然歩合もありません。A型賃金の場合は、歩合がなくても基本給部分がありますので、欠勤での目減りはあってもある程度の金額は給与として保証されます。
しかし、B型はあくまで歩合が給与計算に影響します。売上が少なければ歩合給もわずか。そのわずかな売上から計算される歩合給から社保と税が差し引かれ……極端な話、タクシー運転手の1ヶ月の手取りが10円ということもありえる制度です。タクシードライバー初心者のうちにこの洗礼を受けると、流石に萎えてしまう人は多いでしょう。わずかな給料では暮らしてもいけませんからね。
またB型賃金は、法的な問題を抱えています。例えば、病気で休んでいたタクシー運転手が1ヶ月のうち1日だけ出勤してタクシーを走らせ、お客さんを乗せる前に体の具合が悪くなって帰庫としましょう。この場合、ドライバーの月の売上は0円なのでB型の給料形態では給与も0円になります。しかし、タクシーを走らせた以上、労働はしているので、0円の給料が最低賃金に引っかかってしまいます。
良さを掛け合わせてAB型!!
AB型はその名のとおりAとBのあいのこであり、現在もっとも多くのタクシー会社に採用されている給料形態。大手タクシー会社の歩合システムのほとんどがAB型です。A型の基本給部分にB型の歩合部分を大きく絡ませ、A型に存在する賞与という概念まで取り入れた、ある意味で都市型タクシー給与体系の完成形ともいえるものです。最低限の保証があるため、ある程度は安心してドライバーも働けますし、歩合で稼ぎたい人も仕事を頑張れば稼げます。
賞与分は、高売上だった月の売上から数%を貯蓄しておき、夏や冬に数ヶ月分まとめて放出するという構造のものが多く、結局は自分の歩合給が後から遅れて来るだけだ、と冷めた見方をするドライバーもいます。
例えば、B型賃金のように給与は売上の50%、としておきつつ、その中にA型の特徴である基本給部分を月給16万円とやや小額に設定。そして、月間の売上50万円以上で5%賞与分を貯蓄するというようなシステムだったとすると、
月間売上30万円の場合:30万×50%=15万。基本給16万の為、給与は16万円。賞与分無。
〃 40万円の場合:40万×50%=給与は20万円。賞与分無。
〃 50万円の場合:50万×50%=給与は25万円。50万×5%=賞与は2万5千円。
という風に、この制度ではドライバーの売上の増加に比例して、ドライバーの収入が増えます。病気や怪我などで売上が少なくて歩合計算で16万円を下回っても、欠勤なく所定の労働時間運転していれば、ドライバーには基本給の16万円は保証されるわけです。
ドライバーの売上が良ければ賞与分が貯蓄され、数ヶ月後にまとめて支給。売上40万円のタクシー運転手と50万円のタクシー運転手は、売上の差が10万円のところ、給与と賞与の差は7万5千円もあり、10万多く稼いだ売上の、実に3/4が自分のお金になって戻ってくる為、仕事の頑張り甲斐もあります。ノルマという概念ではなく「自分が頑張った分が給料に反映された」とタクシードライバーがやりがいを感じやすい賃金形態と言えますね。
【まとめ】タクシー業界では歩合や給与条件の徹底的な確認を
どのタクシー会社がどの賃金体系や歩合システムを採用しているかは、求人票や求人募集の広告、社内ブログなどを眺めるだけではよくわかりません。求人票の書式がタクシーのシステムに合っていないからです。
もしタクシー運転手を生業にと考えているのでしたら、事前に賃金体系や歩合、残業についてを会社に直接聞いたほうが良いでしょう。給与計算について的確に把握し、自分の納得できる給与を貰って気持ちよく働きたいものです。野の字でした。