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タクシー会社の御目付役、タクシーセンター
もしお客様がタクシーセンターに実名で苦情をいったらどうなる?
東京や神奈川、大阪などの都市型交通圏には、タクシーセンター等と呼称される公益財団法人などがあります。タクシー乗り場の運営管理や、メーター表示器の正しい使用法の指導、新任タクシー運転手の登録等を行ったり、お客さんからの苦情を受付けたりする機関です。
具体的には、
- 「タクシー運転手の態度が悪い」
- 「遠回りされてボッタくられた」
- 「目的地に着いてないのに降ろされた」
といったものを、苦情申告として受理しています。
申告を受けたタクシーセンターは、該当するタクシー車両を突き止め、苦情が入っている旨をそのタクシー会社に教えてくれます。
タクシー会社側に事情を聞いたうえで、事実であればもちろん、二度とないように、と怒るわけですが、これが場合によっては非常に面倒な事態となります。
ここでは、タクシーセンターに入る苦情について、説明していきます。
苦情の種別~実名or匿名~
実名苦情の場合
お客さんは、タクシーセンターに苦情を入れる際、実名か匿名かを選ばされます。
タクシーセンターに自分の身分を明かして実名苦情として受理させるか、それとも個人情報を伏せたまま匿名苦情としておくかを、苦情内容を述べる前に選択する必要があるのです。
実名で苦情申告があった場合、タクシーセンターはお客さんを、素性の明らかな誠実な旅客として見做します。
タクシー会社へ事情聴取をする際にも、電話等では済まされません。当該のタクシー運転手さんと運行管理者を、タクシーセンターまで出頭させて、対面で事実確認を行います。
これを、弁明、と呼んでいますが、タクシー運転手さん自身も、乗務を放り出してタクシーセンターまで行かなければならないため、大変な負担となります。
しかも勿論、ただ顔だけ出せばいいという話ではありません。
事実関係を説明させられたうえ、苦情の内容が正しければお説教を貰わなければならないのです。
案件によっては、数時間かかることもありえます。
匿名苦情の場合
一方、匿名だった場合は、連絡先等が不明な状態ですから、タクシーセンターの方から苦情申告者に連絡をとることができません。
後日タクシー会社に事実確認をした際に、もし話が全く食い違っていたとしても、再度そのお客さんへ連絡をとって詳しい事情を聞くことができないのです。
このように苦情処理が片手落ちとなるリスクがあるため、匿名苦情はタクシーセンターで重要視されておらず、その対応も、とりあえずタクシー会社に電話を入れて、もしお客さんの言う通りだったなら気をつけてね、と釘を刺しておしまいです。
全て水に流れます。
ちょっとしたミスで大炎上~不要な延焼を防ぐために~
タクシーセンターに実名苦情が入ると、タクシー運転手さんとしても通常の乗務どころではなくなるため、精神面でも身体面でも、非常に負担がかかります。
トラブルには誠実かつ適切な対応を心がけ、自分に非が全くない場合を除いて、謝り倒してでもなんとか実名苦情は避けたいところです。
タクシーに限らず、接客で何か大きな不手際があった際は、真摯に謝罪を重ね、上司に包み隠さず報告・連絡・相談することが大事です。
タクシーセンターや消費者生活センター等の公的機関に一般の人が通報するのは、たいてい直後の謝罪や賠償の提案に納得がいってないためです。
賠償関係は営業所の管理者にぶん投げてしまえばいいのですが、それについても、報・連・相がしっかりできていないと、営業所員の初動対応が遅くなり、「あのタクシー会社はなんにもしてくれない」といって実名苦情に発展してしまいます。
目的地の勘違いや高速降り口の間違い、トランクサービスで荷物を落っことしてしまう等、タクシー運転手さんも人間ですから、様々なミスは生じえます。思わぬトラブルに慌ててしまうのは当然ですが、現場ではお客さんの気持ちを第一に考えて、丁寧に頭を下げて謝罪を重ねてください。
「ひどいミスだけど、話が通じそうな運転手さんだな」と思ってくれれば、タクシーセンター等に苦情として飛び火する可能性がぐんと減ります。もちろん直ちに営業所の管理者に報連相し、反省の姿勢を示すと共に、後日のフォローを宜しく頼んでください。
タクシーセンターという役所
特に多くの地域において、タクシーセンターは国土交通省の各陸運局の下、運輸支局に準ずるような地位を得ていますので、お役所仕事のようになってしまっています。
どんなにくだらない苦情でも、実名で申告されればルールはルール、ということで、いちいち弁明に出向かなければなりません。
極端なことを言えば、「運転手の口が臭かった」「髭が怖かった」といった些細なものでも、それが実名苦情となれば、タクシー運転手さんはセンターまで、運行管理者と同伴出頭しなければならないのです。
昨今はドライブレコーダーの性能も進化し、音声も映像も非常に鮮明です。
つまり苦情の事実確認などは、映像資料をタクシーセンターに送りつけるだけで明白に把握させられるわけですが、ルールはルールです。
運行管理者とタクシー運転手は、レコーダーの内容をわざわざUSBメモリなどに落とし込み、ノートパソコンを抱えてセンターまで弁明に赴き、対面で映像を見せ付けることになります。
しかも、タクシーセンターの担当者によっては、懲罰的に「映像を見せる前にちゃんと自分で説明してみろ」といったことを丁寧な敬語で申し付けてくることもあります。そうなると、「見ていただければわかるんですが」と前置きしながらも、ルールはルール、粛々と当時の状況について説明する必要が出てきます。
非常に馬鹿馬鹿しいですが、国家権力の直下にあるタクシーセンターに、真っ向から逆らえるタクシー会社はまずありませんので、その苦情が全くの嘘八百でもない限り、仕方のないところです。
タクシーセンター苦情は過剰に怖がらなくても
お客様に問題がある場合もあります
タクシーセンターの実名苦情は、タクシー運転手さんと運行管理者にとって非常に憎たらしい案件です。刑事罰や行政罰が執行されるような人身の交通事故に匹敵するほど、精神的、肉体的に疲弊を伴う嫌な存在です。
実際には、弁明のためにタクシーセンターへ赴いたことなど一度も無い、というタクシー運転手さんが大勢いますので、それほど戦々恐々するようなことでもありません。しかし、営業上のちょっとしたミスについて、一切謝罪をしない等、お客さんをないがしろにする態度をとってしまうと痛い目にあいますので、配慮を怠らないようにする必要があります。
ちなみに、タクシーセンターが如何にお役所のようなところでも、明らかにお客さん側がおかしいような苦情申告については、実名であっても弁明出頭不要とされることがあります。担当者の判断にもよるのでしょうが、実際には出頭していないけれども、書類上では弁明を行ったものとして処理してしまうのです。
実例としては、「ほんの数百mしか乗ってないのに、お金を請求され、仕方なく払った」といった申告があります。当たり前ですよね。
お客様対応には十分気を付けて働くようにしましょう。