目的地に着く瞬間にメーターが変わり…「あっ!上がった、コノヤロー !」

「ハネ上がり」に関わるトラブルは多い

こんにちは。「お前んとこの会社さ、料金メーターに細工してる?」という、ぶしつけな苦情電話を何度か受け取ったことがある野の字です。目的地に着く瞬間にタクシーの料金メーターが数十円上がり、カッとなるお客さんは多いようです。業界用語で、ハネ上がり、と呼びます。

結論からいって、タクシー会社が料金メーターを自由に改ざんすることはできません。作ったメーカーでさえ不可能です。ですから、上述のお客さんは全くもって頓珍漢なことを言っています。ここでは、タクシー運賃の計算方法や、料金メーター機器の定期検査等について、正しくお伝えしていきます。

タクシーならではの運賃体系~時間距離併用制運賃~

タクシーの料金制度は、各地方によって相違がありますが、至極一般的なのは、時間距離併用制運賃です。初乗り運賃と、爾後と呼ばれる加算運賃との複合となっています。

例えば、東京都の特別区武三交通圏では、多くのタクシー会社において、初乗り運賃が410円で、加算される爾後運賃が80円ずつとなっています。お客さんを乗せて走る距離や信号待ち等の時間に応じて、料金メーターは、410円→490円→570円→650円、と80円刻みで上がっていくわけです。

わかりやすくする為に、あえて時間の概念を無視して表すと、最初の1052mまでは一律410円で、それを越えると237mごとに、80円ずつ上昇していくというルールになっています。

  • 初乗り運賃=410円
  • 加算運賃 = 0円(お客さんが乗ってから1052m走るまで)
  • = 80円( 〃 1052mを超え1289mまで)
  • =160円( 〃 1289mを超え1526mまで)
  • =n×80円( 〃 1052m+237m×nまで)

これだけならば計算も単純なのですが、時間の概念も絡むようになるとやや複雑です。

渋滞や停車中は料金メーターはどうなるか?

お客さんをお乗せして、信号や踏み切りで停車したり、渋滞等で時速10km/h以下になったりすると、その時間に応じて加算運賃が発生します。距離では237mごとに80円でしたが、時間では、車速10km/h以下の状態が90秒に達すると、80円上がることになっています。

実車中のタクシー運転手さんが、開かずの踏み切り等で1分半つかまるだけで、お客さんは必ず80円損するのです。

正確には、90秒で料金メーターがハネ上がる、という概念で計算が行われているわけではなく、溜まった時間を逐一距離に置き換えて、計算されています。時間は1秒単位でmに換算されるのです。

単純計算で、1秒停車すると2.633m(≒237m÷90秒)走ったことと同じ扱いとなります。

そんなに停車していないのに料金メーターが上がるように感じる事情

例えば、お客さんを乗せて1400m走った際、途中で3回の信号待ちがあり、時速10km/h以下となった時間が、それぞれ30秒、20秒、20秒であったとします。その場合の運賃計算は、以下のようになっています。

まず、総距離から初乗り分の410円で走れる距離を引きます。

  • 1400m-1052m=348m・・・①

そして、途中の信号待ち3回分の時間を、距離に換算します。

  • 2.633m×(30+20+20)秒≒184m・・・②

よって、加算運賃の計算対象となる距離は、以下のようになります。

  • ①+②=532m

実際に走った距離は1400mなので、運賃は570円{≒410円+(1400m-1052m)÷237m×80円}となりそうなところですが、請求される金額は、1584m(=1052m+532m)をノンストップで走った場合と全く同じになり、650円(≒410円+532m÷237m×80円)となります。

上の計算で面白いのは、車速が10km/hを下回った時間は、合計で70秒に過ぎないということです。90秒まで達していないのにも関わらず、運賃が上がってしまいました。実際にも体感的にも、そんなに停車していなかったのにも関わらず、料金が高くなることがある、というのが、タクシー運賃についての誤解を招きやすいところです。

その他の運賃体系と、国による管理

時間距離併用制運賃の他に、観光等で長時間に渡って一台のタクシーを利用し続ける場合の「時間制運賃」や、羽田空港等の特定地点への送り迎えに限って適用されることがある「定額制運賃」など、需給に合わせた様々な運賃制度があります。

時間制運賃は、カラオケボックスと同じようなものです。単価等は各地方で異なりますが、

お客さんは貸し切った時間の分だけお金を支払います。殆どの場合が予約制です。

定額制運賃の方はやや複雑で、予め決められた区間を走行する際に、常に同じ額をお客さんに請求する、という制度です。例えば、羽田空港から新宿区までなら、日中であればいつでも7,100円、と決められていたりします。新宿区内であれば、お客さんはどこで降りても7,100円です。首都高を必ず使う必要があったり、寄り道が不可能であったりと、使い勝手に制限もありますが、一般的なタクシーの時間距離併用制運賃よりも、大幅に安価な料金となる可能性が非常に高く、利用するお客さんも増えつつあります。

ちなみに、タクシーの運賃は全て、国土交通省からの認可を受ける必要があります。「A社が初乗り410円?じゃあウチは250円だ!」等と各タクシー会社が勝手に決めることはできません。

重責を担うタクシー営業の要、料金メーター機器

タクシーの運賃は、国が認可をして初めて適用可能となる、非常にデリケートな存在です。

その繊細な内容と大きな責任を一身に背負っているのが、料金メーター機器なわけですが、残念ながら所詮は機械ですから、使用を繰り返す度に、些細なズレが生じてくる可能性があります

パソコンの動作がだんだん重くなったり、目覚まし時計の針がだんだん進んだり、といった事象と、同じことが起きる可能性があるのです。例えば、誰も気がつかないでしょうが、初乗りは1052mの筈なのに、1011mを超えた段階で爾後が上がり、80円が加算されてしまう、といった事態が生じえます。

しかし、国が厳格な判断のもとで認可を下した料金メーターですから、どうせ誰も気がつかないから、といって放ってはおけないのです。上の例のような事態を防ぐため、料金メーター機器は、年に一度、計量法に基づく検査を受けなければならなくなっています。

計量法に基づく、料金メーター機器の検査

料金メーター機器の検査は、基本的に各都道府県が管轄する計量所で行います。そこまでわざわざタクシーを運ばなくてはならないのです。それも毎年です。全台です。タクシー運転手さんが営業のついでに計量所へ向かったり、整備士や事務員が回送で向かったり、タクシー会社によって対応はまちまちでしょうが、とにかく必ず毎年一回、計量所まで行ってメーター検査を受ける必要があります。

計量所のメーター検査では、初乗り距離や爾後の加算距離が正しく計測されているかが確かめられます。もし不具合があった場合は、以降の営業が一切不可能になります。適切に修理をして、後日また計量所まで赴き、メーター検査をもう一度受けて、合格しなければなりません。

しかし、最近の料金メーター機器は故障に強いものばかりですし、毎年の検査なので、ほぼ問題なく合格します。混雑状況にもよりますが、空いているときの所要時間は、20分弱です。

タクシーの料金メーター機器には封印が

JAPANTAXI

検査に合格した場合、終了時には車内で重要な作業が行われます。料金メーター機器に、鉛の封印が成されるのです。料金メーター機器の中身を開けるとき、絶対に取り外さねばならない位置を塞ぎます。もちろん、なんらかの理由でこの封印が捻じ切れてしまえば、そのタクシーは営業不可能に陥ります。ただちに計量所へ回送し、メーター検査を受けなおし、もう一度封印して貰わなければなりません。

この封印があるため、料金メーター機器には絶対に細工が出来ないのです。タクシー運転手さんも、整備士も、その機器を開発したメーカーの職人でさえも改造が不可能になります。もちろん、改造メーターで計量所へ行き、メーター検査に合格して新しく封印を貰うことが出来れば、その限りではないですが、それはつまり、正しい料金メーター機器と全く同じ性能の改造メーターが出来たというだけのことで、なんの意味もありません。

タクシーメーター細工は不可能だけれど…

ハネ上がりとの戦い

タクシーの運賃は非常に厳格な定めがあり、そして、それに伴って料金メーター機器の質も厳しく公的機関に管理されているため、各タクシー会社やメーカーが、わざと稼ぎやすい計算式を料金メーター機器に搭載する、などということはできません。細工は不可能です。

ただし、タクシーの時間距離併用制運賃は特異な計測計算方式をとっているので、距離や時間について、お客さんの体感との差が如何ともしがたく、ハネ上がりの苦情が入ってしまうことがあるのです。タクシーが抱える大きな弱点となっています。

タクシー運転手さんとして、収入の源となる運賃の計算方法等を知っておくことは、意外と大事です。もしハネ上がり等の苦情が入った時に、真摯に釈明できるかどうかにも関わってきます。ぜひ頭の片隅に置いておいて下さい。



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20代でタクシー業界に飛び込み、運行管理者として業界準大手の会社に就職。タクシー運行管理の他、交通事故処理や苦情対応、本社に異動してからは新人研修等も任されるようになり、タクシー関連業務の多方面で活躍。顔も名も明かせない恥ずかしがり屋