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現役タクシー運転手が教える業務の流れ
ただ運転するだけと思ったら大間違いです
日頃業務に流されてあまり気にしていないのですが、タクシードライバーと言う仕事は実に忙しいと言えます。
改めて思うのですが、一回の乗務で行う業務は実に多岐に渡っています。
料金の精算やハンディキャップのある乗客の乗降の手伝いは言うまでもないのですが、それ以外にも、運行する車両の点検や法令指示に伴う業務などがあり、中には忘れると致命傷になるレアな業務もあります。
そこで今回は、タクシードライバーとして「絶対関わらないといけない」業務についてご紹介して行きましょう。
現役タクシードライバーの方がお読みになると、実際の業務と異なる場合が出て来ると思いますが、あくまで私が勤務する会社を例にし、加えて早番勤務を基にしていますので、予めご了解下さい。
朝は自分と相棒(担当車)健康管理から…
早番勤務に従事するタクシードライバーの一日は、とても早いものです。
早番勤務(朝出庫⇒深夜帰庫)に従事の場合、大体ですが6時~8時には出庫して行くスケジュールが組まれているのです。
そこでタクシードライバー達は、早い人で朝5時過ぎには出勤して来るのです。
それは何故でしょうか?
タクシードライバーは、出勤して来ると制服への着替えや身だしなみを整えるのですが、それ以上に大事な業務なのが「自分」と「今日の乗務の相棒の担当車」の健康をチェックする事です。
アルコールチェックが毎回ある
私の会社の場合ですが、制服に着替えが終わると、まず一階にある点呼場にある「アルコールチェッカー」に息を吹き込みます。
公共交通機関に従事する者として、二日酔いのまま出社するなどありえない話なので、大概ここでは「ピンポ~ン」と何事も無くOKサインが出るのですが、中には…
ブッブッブッブッブッ~✕✕✕✕✕…豪快に引っ掛かる人がタマにいます。
但し、引っ掛かった人の中には、朝景気付けに「マムシドリンク」とか「何とかD」を飲んで来る人も居るもので、そうした栄養ドリンクの一部飲み口には、消毒用アルコールが吹掛けられているケースがあるので、一度引っ掛かった人は20分間を空けてもう一度チェックを掛けます。
殆どの場合は無罪放免になりますが、中には二度目も「ブッブッブッブッブッ~」となる方もおり、その方は即乗務停止&処分申渡し(私の会社では3乗務停止)となってしまいます(汗)
…お酒は程々にしましょうね(笑)。
車両点検が毎回ある
アルコールチェックが済むと、今度は点呼場又は事務所に備えられている今日の乗務の相棒になる担当車の点検簿を取り出して「車両点検」に入ります。
「車両点検」は道路運送車両法第47条で義務付けられており、その記録は陸運局の査察時に、常に閲覧出来る状態にしておかねばなりません。
この内「外観検査」では、車の周りを一周してキズや破損の有無について確認します。明らかに飛び石などによる擦過傷を除き、明らかに人為的に傷ついたものを探し出します。
「車内・エンジンルーム検査」の内、エンジン関連では「エンジンオイル&ラジエーター冷却水が適量か?」「ファンベルトの張り具合が適正か?」「バッテリーが正常に放電しているか?」を確認します。
車内では「シートが破損していないか?」「決済用電子機器が正常に作動するか?」などを確認し、問題が無い場合は全てOKとチェックをして記名又は捺印し、車両管理者or当番班長に提出します。
中小会社の中には、車両管理者がタクシードライバー一人一人に立ち会って「車両点検」を行うケースもあります。
点呼で注意事項を確認して出庫
さて「車両点検」も終わったあなたは、点呼場で運行管理者から当日の運行に関する注意事項を受けます…これが「点呼」と呼ばれるもので、公共交通機関独特の業務の一つです。
点呼では、主に当日の高速道路通行止め情報や、イベント開催に伴う通行規制(例・墨田川花火に伴う規制情報など)の説明、決済システムの新規操作方法の説明など多岐に渡り、中には一部内容をスマートフォンなど通じて情報提供する会社も現れています。
その他、当日の営業情報(宴席などの台数口配車)なども提供されます。
こうして全ての点検・注意事項を終えた上で、いよいよタクシードライバー達は街へ出て行きます。
タクシードライバーの営業中の生態とは?
さぁ、いよいよ今日の営業が始まりました。タクシードライバーは各々長年築き上げたお客GETポイントや主要ターミナル駅の一般乗り場、更には各社が都内各所に持つ専用乗り場を目指して動いて行きます。中には出庫した途端「無線」をGET!するケースも。
朝の無線は、ドライバー仲間でも「オイシイ無線」と呼ばれ、都内の主要病院(都立広尾・墨東、慶応・女子医大・慈恵医大・東邦大森など)や東京駅・新宿駅など主要ターミナル、中にはいきなり羽田や成田(!)など…いや、書いている私がヨダレを出して来そうなお客様に恵まれる場合もあります(笑)。
そんな運に恵まれなくても大丈夫!主要な幹線道路を飛ばしていると、大概手を挙げて待っているお客様が山の様に(笑)。
その様子が、ホラー映画でゾンビが襲ってくる様子に例えて「目黒通り上下線でゾンビ状態」などと仲間通しが情報をやり取りしているケースも。
更なる荒業は、な・何と「いきなりステーキ」ならぬ「いきなり羽田待機!」と言う強者も居ます。品川区や大田区に本社があるタクシー会社のドライバーがよくやっており、日本交通グループの中では、大田区の羽田交通㈱や飛鳥第五(大森)のドライバーの「ルーティンワーク?」だそうです。
羽田空港の国際線は、朝4~7時代に欧州やアジア各国からの「アーリーバード(早朝到着便)」で到着ラッシュとなり、主に外国人客が帝国ホテルやグランドハイアット東京(六本木)への移動に「ヘイ、タクシー!」と利用してくれるのです。
ただ、中には「京急蒲田駅」とか「羽田第一ターミナル」などの大外れ(涙)も結構ありますが(笑)。
私は早番時代から、
- 会社出庫
- 山手通り
- 池袋劇場通り
- 明治通り
- 新宿通り(甲州街道)を通って、
- 最終的に六本木ヒルズか東京ミッドタウン(現在は紀尾井町ガーデンテラス)
へ向かうルートを辿っています。
こうした個人的ルートを持つと、日時のよっての人の流れや乗客の方向性、中には馴染みの乗客が出来たりします。日曜や祝日の出番に当たったりしても、こうした知識が生きて、新人の様に「朝が坊主(スッテンテン(笑))」になるケースは殆どありません。教育している新人には「早く自分の路線を作れ」と指導しています。
タクシー運転手の昼ご飯事情
さて朝の稼ぎ時を終えたタクシードライバーは、早い人では朝10時位から、遅くとも昼の1時位から「しーめー(昼飯)」になります。
タクシードライバーの昼飯は、実に多彩…自分のお気に入りの店を見つけて、そこへ通うケースや、仲間と打ち合わせて某ファミレスで昼食を取るケースも見られます。
昔「美味い店はタクシードライバーに聴け」と言う言葉がありますが、観光地のタクシードライバーの中は、情報収集のために飲食店を利用するケースが多くなると聞いています。
しかしサラリーマンと違って薄給なタクシードライバーは、コンビニで買ったおにぎりや弁当と飲み物で済ませるケースが殆どで、私の様に「勤務明けの一杯に(お金を)廻したい!」と昼食抜きで走回るケースも少なくありません。
「じゃぁ、昼飯時にナニやっているの?」と聞かれれば、主に「釣り銭箱の整理」や「車内清掃」でヒマを潰しながら休憩しているって感じですかね。
釣銭は自分で用意する
ところで「釣り銭箱」の話を忘れたので、ここで少しお話しておきます。
タクシードライバーは現金利用客の釣り銭返却の為に、自前で釣り銭を用意することが伝統となっています。大体一乗務当たり平日で2万5千円・日祝で1万5千円が目安とされています。
私が用意する金子の内容ですが…
- 10円玉=40~50枚
- 50円玉=5~10枚
- 100円玉=40~50枚
- 500円玉=5~10枚
- 1000円札=10~15枚
前後はしますが、大体これ位を「釣り銭箱」へ入れて出庫します。
ところで、写真にもある「釣り銭箱」ですが、都内のLPGスタンドを運営する会社が発明したものと言われ、昭和50年代からずっと「タクシードライバーの友」として知られ、新人は本乗務前に必ずこれを買って準備します。
金子別に区分けされ、片手で持ち運び出来るので、車から離れる際に持って出れて防犯面にも優れているなど…正にタクシー乗務を意識したアイテムです。
午後は身障者、高齢者、塾通いの子供の搬送も
さて昼食が終わると、いよいよ午後からの営業に入るのですが、個人タクシー宜しく稼ぎ時の夜まで寝ている吾人も居れば、午後から「特殊な営業」に入るタクシードライバーも居るのです。
身障者・高齢者や塾通いの子供達の搬送を、ハイヤーの様に時間制で請け負うサービスを各社が導入しており、こうした特殊業務に従事するタクシードライバーの数は、年々増える傾向にあります。
タクシードライバーは19時からが稼ぎ時
富士の彼方に日が沈み、夜の帳が営業車を囲む時間帯になると、さぁタクシードライバーにはお待ちかねの「稼ぎ時タイム」です。
タクシードライバーの頭の中には「軍艦マーチ」が鳴り響き「営収ノ荒廃、コノ一戦二アリ」と銀座・赤坂・六本木・歌舞伎町など主な繁華街へタクシーが突撃して来るのです。
タクシードライバー仲間では、22時以降の割増時間帯(青燈/アオタン)でオバケ(長距離客)を取ったと言う話はよく聞く事ですが、実は19時~21時の速い夜の時間帯は「大御所タイム」と呼ばれ、企業の役員クラスが早めに飲みだし、この時間帯に早々帰ると言うモノで「第一次ゴールデンタイム」とも言われます。
この時間帯に、銀座の並木通りや赤坂5丁目の飲食店街、又は歌舞伎町・区役所通り北側の高級韓国バー辺りから無線で呼ばれると「ア・ツ・イ!」って思ってしまいます…勿論「大外れ」もありますがねぇ~(笑)。
22時以降の深夜割増時間は稼げるが難しい時間
そうこうしている間に、いよいよタクシードライバー最大のイベント「2割割増時間帯(青燈/アオタン)」がやって参ります。翌朝5時までの間は、たとえ近距離でも千円は稼げるので、躍起になって走り回ります。
しかしこの時間帯は、別の意味でタクシードライバーにとって「魔の時間帯」とも言われます。それは「銀座タクシー乗車規制時間帯(通称・乗禁規制)」に突入するからです。
「タクシー適正化特別措置法(タクシー特措法)」に明記されている乗禁規制は、万一違反すれば、中小のタクシー会社なら、最悪懲戒解雇に繋がると言うオソロシいモノです。
銀座に関わらず、霞が関の官庁街や丸の内などのビジネスタワーでは、残業でヘロヘロに疲れたビジネスマンが、配られたチケットを握って「ヘイ、タクシー!」でブッ飛ばして行くのです。
そうした客待ちの為、霞が関や大手町周辺でタクシーが行列を成して止まっている光景を御覧になった事があると思います。
一度病みつきになると辞められない「付け待ち営業」ですが、最近は近隣から110番が入る事が多く、たまにパンダ(パトカー)がやって来て追い払われるケースを、最近よく見る様になった気がします。
タクシー運転手は残業ができない
さて…銀座・和光の時計台が深夜12時を告げる頃、早番のタクシードライバーの中は「帰り支度」を始める人が居ます。
道路運送車両法では最大21時間45分間で活動出来るタクシードライバーですが、多くの会社ではそれより短い時間で帰庫を命じてる所が多く、特に5時台に出庫したタクシードライバーは、シンデレラじゃありませんが脱兎の如く会社に向かって走り出します。
会社に帰庫する場合は、必ずスーパーインボイスを「ワカメ」にします。
えっ?「ワカメ」ってどういうことですかって?
タクシーが「今は営業していません」と意思表示する方法にスーパーインボイスを「回送」に切り替えます。
回送⇒かいそう⇒海藻…ってダジャレです(笑)が、この前スーパーインボイスの前にワカメの絵を描いた自作の回送板を出して走っているタクシードライバーを見てひっくり返りました(これタクセンに見つかったら「お縄モノ」なので、絶対マネしないでね)。
オバケを引っ掛けて千葉だの埼玉だの、果ては私みたいに水戸(?)へ飛んで行き、夢心地になったタクシードライバーも、帰庫時間に遅れると行政処分対象報告者になるので、正に阿修羅の如く高速をブッ飛ばして帰って来ます。
無事に事故することなく、パンダにも追い掛けられず(笑)無事に帰庫出来たあなたには、もれなく二大行事が待っています。
帰庫してからの作業について
その一つが「納金業務」…要するに一日の売り上げを会社に納金するのです。
現在は料金メーターやタコメーターも電子化され、納金管理システムと連動し、帰って来て自身の社員番号を入力すれば、その日納金しなければならない売上を示した用紙を出してくれます。
売上は主に5種類に仕分けされ…
- 現金
- 交通・信販系電子掛売(スイカ・IDなど)
- クレジットカード掛売
- 紙系掛売(チケット類)
- その他掛売(会社契約)
となり、現金以外の証明用紙・控えを確認して歳が無い事を確認し、現金で納金する額を決定し、釣り銭箱からの納金額を取り出し、納金機で各掛売の項目を入力し、最後に現金を納金して記録紙を打ち出して管理者に提出して終わりです。
納金を済ませると、最後にもうひと働き…洗車です。
24時間相棒として働いてくれた担当車を綺麗にして、相勤(自分の裏番で同じ営業車を使って働くドライバー)に気持ち良く引き継ぐための作業と共に、洗車を通して事故など以外の飛び石などで車体が破損していないかを確認する目的があります。
一般に洗車の手順としては
- 車体の洗浄☛拭き取り
- 車内のマット洗浄(専用機材アリ)&シートカバーの整頓
- 運転席の機材清掃
となりますが、こだわりのあるタクシードライバーは、ガラスコーティング剤やタイヤコーティング(艶出し)もしてしまう程の手の込み方。
ただ丸一日近く業務に携わった体に、洗車は非常に厳しいもので、最近は外部の「洗車屋さん」を利用するケースや、タクシー会社が福利厚生の一環で洗車業者を入れ、月額の洗車料金を給与天引きで処理してくれるケースが増えて来ているそうです。
洗車が終わり、異常が無ければ管理者に報告する事なく、アナタは晴れて…仕事明け…となる訳です。
仮眠室で一番電車が来るまで爆睡するもよし。私の様に、駅前の24時間酒場で飲んだくれるもよし(?)なのです。
タクシードライバーの仕事は多い
運転だけが仕事ではない
さて、今回は如何だったでしょうか?
タクシードライバーは、決して単純に運転出来ればいいって時代ではなくなりました。サービスの多様化や、ドライバー一人一人の順法意識や規律を求める意識が高まる中、かつての様な無頼派なドライバーは居なくなると思います。
こうした動きは、かつて菅原文太が主演した「トラック野郎」の席にまで及んでいると言われ、運送会社の中には「フリーのトラックドライバーは出入り禁止」とする動きにも及んでいるそうです。
今回もお読み頂き、ありがとうございました。