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会社員タクシー運転手の目標は個人タクシー!
現役日交のタクシー運転手が個人タクシーの実態を調べました
街中を走っていると、白色や白にブルーの帯を纏い、屋根に「提灯」や「デンデン虫」の行灯を掲げたタクシーを見ると思います。
これがいわゆる「個人タクシー」と呼ばれるものです。
私がタクシー事業を行う法人に所属して、乗務員として活躍する「サラリーマン・タクドラ」なのに対し、個人タクシーの乗務員はいわゆる「個人事業者」…つまり「自営業タクドラ」とでも言うべきでしょうか。
しかし、多くの法人タクシー乗務員にとって、個人タクシーを開業する事は「夢」であり「目標」でもあるのです。我々の世界の中で個人タクシーとは、「タクシーの中のタクシー」「キング・オブ・タクシー」なのであります。
そこで今回は、個人タクシーを開業させるために必要なことや資格について、実際個人として独立された方へのインタビューを基に、年収がどの位見込めるのかをお話ししたいと思います。
1.個人タクシーの歴史
個人タクシー事業認可は1959年からスタート
さて「個人タクシー」と普段何気なく口にしている私達ですが、一体個人タクシーとは、どのような経緯で運行を始めたかご存知ですか?
時は1950年代…日本の戦後復興が軌道に乗り、いよいよ高度成長期へと向かおうとする最中。東京など大都市圏を中心に、法人タクシーが相次いで開業します。
ところが、これがトンデモない代物。お構い無しにぶっ飛ばす「神風タクシー」と呼ばれる輩や、法律で禁止の「相乗り行為」に「白タク」「チャブリ(関西のタクドラ用語・駅前&繁華街で客引きをし、メーターより安い料金で輸送する行為)」が横行して、大変な社会問題化となりました。
以下の動画は現在のタクシーセンターの前身「自動車運輸委員会のタクシーGメン」取り締まりを伝える中日ニュースです。
こうした情勢や年々タクシー需要が高まる中、現在の国交省(当時の運輸省)は、優良な運転者に個人事業のタクシー免許を発行し、併せて全国で横行する白タクや、違法運行を繰り返す法人ドライバーの抑え込みを図ろうとします。
そう、これが個人タクシー事業認可の始まりなのです。
最初の個人タクシーの免状は、1959(昭和34)年まず東京の172名に交付されました。その後大阪・名古屋などでも個人タクシーの免状が交付され、次第に全国へ広がっていきます。
一方京都や神戸では、こうした個人タクシー制度に対抗し、いわゆる「タクシー共済組合」と銘打ち、いわゆる「会員権方式」を使いタクシー行為を図ろうとします。後に彼らも地域の個人タクシーに合流して行きますが、上部団体とイザコザを繰り返します。まぁこのお話は、後でしましょう。
白タク阻止と法人タクシーと競わせることで、タクシー全体の規律とサービスUPを狙って誕生した個人タクシー。
現在は、全国78都市で39,304両が活躍しています。なお、茨城・山梨・鳥取・島根の4県には個人タクシー事業者&協会が存在していません。
2.個人タクシーになる為の資格・試験・準備とは?
タクシー運転手でやっていくのは簡単じゃない
「昨今はブラックな勤め先も多いし…それなら思い切って『一国一城の主』として個人タクシーでも開業して、気楽に稼ぐか!」
とお思いの方もいるかもしれません。
ボーッと生きてぇんじゃねぇ~よ!!
てチコちゃんに叱られますよ(笑)。
既に法人タクシーの乗務員任用に関してお話しして来た通り、乗務員になる事は、 生半可なことでは絶対なれない事です!(断言)
しかも先ほど言った通り、個人タクシーは「キング・オブ・タクシー」と呼ばれ、「乗って安心個人タクシー(今や死語だな…この話は後で)」と言われる程の知識や運転技術の高さを誇っています。
それに対応出来る乗務員は、正しく… 選ばれし者たち(ドラクエのテーマ曲が欲しいなぁ) なのです。
要するに、そこらへんにいるアンちゃん&ネ~ちゃんやヲッサンが今すぐ出来る様な仕事ではありません!(断言)。
では、個人タクシーを開業するためには、どの様な資格や試験&準備する者が必要なのでしょうか?
まずこの話の冒頭で、皆さんにある衝撃的な事実を伝えねばなりません。それは…
現在、個人タクシーの新規開業は全国的に原則不可✕
「おいおいおい…何てこと言い出すんだぁ?(激怒)」
まぁまぁ、落ち着いて聞いて下さい(汗)。
これは、今から5年ほど前のタクシー不況真っただ中。街中にタクシーがアブレテ大問題になった折、ギョーカイが一斉に「保有車両の減車」を始めます。
ところが、個人側は「どこ吹く風」と新規開業を続々申請。「そりゃあかんやろ~」と言う事から国交省は通達を出し…今後個人タクシー開業希望者は、新規申請でなく、高齢等で個人タクシー免状を返上する人から譲渡を受けて開業しなさいという通達を出します。
いわゆる「譲渡開業」と呼ばれるもの。現在全国ほとんどの個人タクシー協会では、「譲渡開業」のあっせんを主に行っているのが実情です。
でも、こうした「譲渡」だの云々の話に辿り着く前に、もっと大切な資格があるので、そちらを先にお話ししましょう。個人タクシーを新たに開業したい者は、以下の基準を満たしているかが問われます。
個人タクシー開業の申請が可能な人の基準
- A. 開業申請時に65歳未満である事(65歳以上の方は✕✕)
- B. タクシー・バスなど道路旅客運送に、通算10年以上携わっているか (2・3社に渡っても良いが、再就業までの期間が6ケ月以内である事)
- C. 申請時点からさかのぼって、過去5年間無事故・無違反・無垢場である事(昔は過去3年間だったが、規制が強化。査定期間外でも人身等の前歴は✕)
- D. 十分な開業資金及び李業者量が準備出来る事
以上4点をクリアせねば、個人タクシー事業者としての法令・地理テストを受験する事は出来ません。
更に申請時の年齢・法令順守・資金繰りに関しては、より細かく規定が定められています。(詳しくは、この全国個人タクシー協会のHPを見てね)
いわば、上記のような厳しい基準をクリアして、ようやく申請した上で「受験資格」を得るところへたどり着く訳ですから、相当根性を入れてやらねばなりません。
個人タクシー開業するためには法令・地理テストもある!
では、個人タクシー開業への最大の難関と言われる「個タク版地理テスト」とは、如何なるものが出るのでしょうか?
個タク版地理試験問題(東京都個人タクシー協同組合・葛飾第二支部HPより)
http://www.katu2sibu.com/blankpage23.html
まぁ、ドライバーの仕事をやっている人にとっては「宇宙遊泳」状態になっている事でしょう(笑)。私たちプロでも、問2以降は、タクセンの地理試験問題で所謂「捨て問題」扱いでしたので、これ八割合わないとダメ!と言われると、正直寝込んでしまいます(笑)。
先輩の個人タクシー運転手に開業までの話を聞いたところ
私達の先輩にも、数多くの個人タクシー開業者が居ますが、お話を伺ったところ…
- 開業資金を貯める(協会からOKが出るまで)まで…約3年
- 開業に向けた諸手続き(審査許諾待ちを含む)まで…約1年
- 営業車の納車・カード(クレカ・スイカ等)の業者登録などで…約1年
計5年は十分掛かるといわれます。ある意味オソロシイ話です。
尚、諸試験や開業への手続きが完了した個人タクシー「ピッカピカの一年生」は、社団法人全国個人タクシー協会(全個協)へ加盟し、譲渡を受けた所属支部で個人タクシーとしての第一歩を踏みます。
地域の支部は大きく分けて二つあり、
- 全国個人タクシー連合会(東京は東京都個人タクシー協同組合)通称デンデン虫
- 日本個人タクシー連合会(日個連)通称ちょうちん
があります。全くの個人事業者も居ますが、かなりの例外です。
3.個人タクシードライバーの収入ってどのくらい?
個人タクシーの億万長者は都市伝説?
さてさて…皆さんが最も気になるコーナーがやって参りました(笑)。
街中の多くの皆さんが
個人のドライバーには億万長者がいるらしいと言う都市伝説を「モロ」に信じている方が多いと言います。
確かに一昔前に、「六本木ヒルズのレジデンス一部屋をキャッシュで買った個タクの乗務員が居る」と噂になりました。それぐらい羽振りが良かったそうです。
恐らくですが、現在はそのレベルまで個人タクシーの収入ベースは戻って来ていると言われます。(そうした事を裏付けるあるWEB記事がある)
売り上げがすべて収入になるなら会社員より儲かるのでは?
確かに私たち法人タクシードライバーの場合、一日10万やってきたとしても、その内自分の身入りになるのは約6割弱。残りは、会社で入れてもらう燃料代や保険代&営業車のリース料云々など経費に消える訳で、売上100%身入りという個人タクシーのドライバーはウハウハ…だと言えます。
経費もいろいろと安くできる指南を協会・各支部で提供されている様ですし、税金逃れもチョチョイのチョイ!と聞きます。
しかし、実態は余り良くない様だと言う声が聞こえてきます。その理由は、次の次の章でご登場頂く方から、お話を聞いてみましょう。
4.個人タクシーを巡る問題・ウワサ
個人タクシー運転手がタクシーセンター違反をしたら
ところで「キング・オブ・タクシー」「乗って安心個人タクシー」と呼ばれる個人タクシーですが、最近全国的に評判が良くないと声を聴きます。
二年ほど前、タクシードライバーなら有名な銀座の土橋で、乗禁時間帯に違法営業をしていた個タクのドライバーがタクシーセンターの監視員に見つかり、監視員に暴行を加えたとして、当該ドライバーが優良証を取り上げられたと聞きました。 (個人タクシーで言う三ツ星「マイスター」)
★ことば★三ツ星「マイスター」とは
東京の法人タクシーで言うところの「AA(ダブルエー)制度」。銀座や羽田空港など、乗車規制がある場所へ入構する場合に必要となる認証制度。個人タクシーでは、開業から概ね3年以上「無事故・無違反・無苦情」である場合与えられる。極めて優良な個人タクシーである証明となる。
接客態度が悪い運転手は個人タクシーに多い
また接客態度についても、タクシーセンターへの実名通報(いわゆる苦情)の半分以上が個人タクシー絡みだと言います。例えば…
- 近距離で乗車を申し込んだら「チッ!」と舌打ちされた
- 路上で子連れで乗車を申し込んだら、「空車」の表示を「回送」に替えられた
- 急げと言ったら、首都高を120kmで飛ばされ、生きた心地がしなかった
- (これ、みんな東京タクシーセンターの職員から聞いたホントの話)
だそうで、全個協&各紙の所属支部も頭を抱えているそうです。無論こうした苦情が上がれば、協会や支部ごとの基準に照らして処分されます。
最悪は個人タクシー協会除名(廃業)もありうる
一定期間の「車両停止(営業禁止)」・無線配信停止などが主な内容ですが、最近は個人タクシーの品質の危機が叫ばれる中、 全個協から除名(いわゆる個人タクシー廃業)
されるケースも少ないと聞きます。
情状酌量もあるのでケース的には少ないと聞きますが、全国で年間10例以上はあるそうです。
そして、一番初めの章でお話した京都・神戸の「旧タクシー共済組合」系の全個連&日個連加盟支部が、東京の上部団体との運営方針を巡って紛争となり、度々裁判沙汰になっています。中には当該支部のデンデン虫やちょうちんの行灯が取り上げるケースもあるなど、かなり深刻な状況と言われています。
「京都・神戸の個人タクシーは営業態度がヒドイ」とネット上で話題になっていますが、こうした背景が理由となっているかもしれません。
5.現役個タクドラが語る「個人タクシーって、どうよ?」
個人タクシー運転手2人にインタビューしました
さぁ皆さん、お待たせしましたぁ~!
いよいよこれから、現役の個タクドライバーの皆さんに「チョーぶっちゃけて」頂きましょう。無論、面が割れてはイケマセンので、もちろん仮名&詳歴は伏せて…
Aさん=タクドラ歴通算15年・昨年個タクとして独立。只今お客様募集中?
Bさん=タクドラ歴通算13年&個タク暦2年・珍しい女性個タクドライバー
堀端
「 個人タクシーになられてAさんBさんが大きく変わった点は?」
A・B共に
「働く時間が短くなったね!これぞ「働き方改革」ってやつ?」
Aさん
「実際、僕らの勤務は夕方5時~明け方の4時ぐらいまで。それを月~金の5日サイクルで回している。中には土日に出ている人もいるけど、それは個人の生活サイクルによって出し、日勤(8~17)で回している人もいるよ。」
Bさん
「私も夜やっているけど、結構厳しいわ。法人は六ヒル(六本木ヒルズ)等乗り場があるけど、私達は駅付けやツケマイ(路上に止めて申し込みを待つ事)が主。無線なんて日一本あるかないかよ。」
個人タクシーの売り上げ、手取りについて
堀端さん
「 経費引き前の月当たりの水揚げ(売上)ってどのくらい?」
Aさん
「オレは先月(2019年1月)90(万)行ったかなぁ~?」
Bさん
「羨ましいィ(涙目)私なんか70(万)よ」
堀端さん
「でも、そこから経費が引かれて行くって訳ですよね」
Bさん
「そうなのよぉ。日交時代は『足切り高いだの云々』って言っていたけど、今にしてその理由が解ったわ。一月の水揚げの内、三分の一近くは燃料代で飛ぶ。後、クレカやスイカ&無線利用などのシステム代に協会費。
何だかんだ引かれて、手元の残るのは30(万)ギリッて感じ」
霞が関は個人タクシーが多い
Aさん
「Bさん、いつも霞(霞が関の官庁街)で寝てちゃだめよぉ~(笑)」
Bさん
「 だって、あそこは最後の主戦場だから(笑)」
堀端さん
「お二人にお聞きしたいのですが、よく霞が関で個人の方がズラリ並んで「神待ち」ならぬ「官僚待ち」営業をされておられますが、何か決まりの様なものはあるのですか?」
Aさん
「確か支部毎に、月~水は経産省別館前・木~金は財務省前とかって分けているはず」
Bさん
「ウチの支部は、確か水・木が割り当ての日だったっけ。でも、他の日だって構わず付けちゃっているわ。だって「女の子」だも~ん(笑)」
個人タクシー開業までやったこと
堀端さん
「ハイハイ…ごちそうさまでした(汗)
ところで話は変わりますが、開業に向けての資金なのですが、一体どれくらい用意すればいいのですか?」
Aさん
「支部に斡旋して貰える営業車が「新車」か「中古」かにもよるけど、「新車」前提ならやっぱ1000万は用意出来れば…」
Bさん
「私は自己資本が少なかったので、車は中古のFUGA。それでも装備一式入れて200万掛ったわ。支部によってだけど、開業資金の融資をしてくれるところがあるみたい。
個タク独立への基準を満たしていて、自己資本が少ない人に最大1000万までの借り入れをさせて、後は売上から支部にペイするって感じ。足切りみたいで気持ち悪いけど、そう言う形で開業する人も最近増えているわ。」
堀端さん
「 最低限『このくらいは絶対必要』って準備金の目安はあるのですか?」
Aさん
「日個連や全個連傘下の各支部で、色々見解が分かれているけど、大体300万は最低握って支部に泣きつきって感じ。ただ、保証人だの云々って面倒臭いから、出来ればちゃんとカネ貯めて独立した方が良いよ。」
Bさん
「それは言える。借金御殿で走り出したって、最初の2~3年は法人より実入りが低いって言われているから、そのことは覚悟の上ね。その収入で良いっていう人には構わない話かもしれないけど。」
堀端さん
「いやぁ、ウワサには聞いていましたけど。資金作りから大変なのですね。借金で首が回らない私は辞めておきましょう(笑)。
ところで、個人のドライバーさんは『億万長者が居る』『一日一仕事だけのドライバーが居る』など様々な都市伝説がありますが、皆さんの支部では?」
Aさん
「一日一仕事の人、ウチの支部に居るよ。某中堅会社の役員と友人で、言ってみれば『ハイヤー契約』みたいなことをやっている。土日祝も、接待だ&ゴルフの送迎だって仕事しているけど、逆に夏休みだ&正月休みはしっかり休んでいるしね。そういう面では、羨ましいかな。」
Bさん
「億万長者とは言えないけど、年収1000万円超の個タクドラは結構いるわ。
そういう人達は、オープンでは入れるホテル(例:帝国ホテル等)やビジネスタワー(例:イースト21タワー等)へ毎日付けて、テナントの人や車寄せの係の人に顔を覚えて貰うの。それも台風や大雪の日でも行くのですって!
そうする事で信頼を得て、やがて『外国人で、成田までのお客さんですがいいですか?』なんて斡旋を頂いたり、その月(日じゃないの、一月通じてよ)の宴席予約や宿泊の状況を聞き出して、成田とかアタリが出る日を狙って付けに行ったりするのですって。
涙ぐましい努力だけど、それが出来る人は大台越えが出来る人なの。」
個人タクシーの人気エリア
堀端さん
「またまた話は変わりますが、個人タクシーの評判が絶大って地区はありますか?例えば城東地区(墨田・江東・江戸川など)とか城南地区(大田・品川・港など)とかは「個人が強い!」と言えるところとか…」
A・B共に
「全般的に強いよ(笑)ただ日交には負けるけどね(大爆)」
Aさん
「城東なんか、前を走るチェッカーの黒タクをシカトで俺に手を挙げて来る。」
Bさん
「聞いた噂だけど、成城とか田園調布の辺りで夜付け待ちやってる個人タクシーは、朝になると富裕層の人を丸の内やお台場へ送る為の人たちなのですって。それぞれ個々で顧客を持っていたいり、支部から割り当てられて「〇〇さんは、今日はどこどこから成田直行。時間4:30AM」とかってあるそうよ。」
Aさん
「俺もそういう御身分になりてぇなぁ。」
Bさん
「無理よ、まだ私たちマイスターにもなっていないんだから(笑)」
個人タクシーとして独立は厳しいけれど…
真面目に仕事をしている個人タクシー運転手は『キング・オブ・タクシー』
現役個タクドラのお話は如何だったでしょうか?
なかなか個人タクシーとして独立するには、昨今は中々厳しい情勢です。しかし、まじめにやっている個人タクシーは、正に「キング・オブ・タクシー」なのです。
個人タクシーをご利用の際は、その点を留意してお乗りになってみては如何でしょうか。