働き方改革で注目されるタクシー運転手としての生き方・働き方

日本交通では150人が新卒で入社

日本交通新卒

今年の春も、日本交通グループには約150人の大学卒生(学士)が入社して来ました。日本交通本体だけでなく、ウチを含めグループ各社にも数名ずつ入ってくる様子は、一昔前では信じられなかった光景です。

かつてタクシー乗務員(タクドラ)と言えば、私の様な社会の場末に追い遣られた人間がなる職業と言われ続けて来ました。その流れが変わったのが、3~4年前から定期的に大学卒の学士さんが会社に入ってくるようになってきてからです。

最初の内は、大変違和感を感じていた私ですが、社員の平均年齢もグッと若くなり、朝ヘロヘロで帰って来た時「おはよう堀端さぁーん!」と黄色い声で迎えてくれる内勤の大卒女性には、正直癒されますね。

さて今回は、こうした昨今の大卒学生(学士)「タクドラ就職事情」についてお話して行きたいと思います。

何故大卒生は、就職先に「タクシー会社」を選ぶようになったのか?

KM

ところで今では珍しくなくなった「大卒生(学士)のタクシー会社入社」ですが、私が大学生の頃は「絶対あり得ない話」でした。

父親や親族がタクシー会社の社長や幹部だった事を除いては、在学中に問題を起こして警察のお世話になった人や、大学生活を8年掛けゆっくり卒業して来たのんびり屋さん位しか関係ありませんでした。

そうした流れに一石を投じたのが、かのMKタクシーグループ(本社・京都市)だったと言われます。

MKは1975(昭和50)年から、大卒生(学士)の定期採用を始めたことで知られています。

暫くはいわゆる「Fランク」の学校でしたが、1990年代に入ってから関関同立(関西・関西学院・同志社・立命館)などの名門私大から採用されるケースが出始め、今や京大・阪大などの難関国立大からも、選抜された優秀な学士さん達が入社する様になったそうです。

確かに、今年のウチ(日交グループ)の学士入社の出身校を見ても、早慶は元より東京外大・横浜国大など信じられない錚々たるメンバーです。

では、どうしてこうした私なんか吹き飛ばされてしまう優秀な大卒生(学士)が、大挙してタクシー会社に就職を希望して押し寄せる様になったのでしょうか?

法令順守で残業がない職場としてタクシーが注目

日本交通

それには、昨今の就職事情や社会情勢の劇的変化が大きく関わっている様です。私が大学生だった頃は、大手企業が大量採用を続け、終身雇用が当たり前とされる世の中でした。

しかしグローバル経済の急速な進展で大手企業が力を失って終身雇用が崩壊し、IT革命の進展で個人が起業する人たちが増える中、人間の身体的・精神的限界を無視した働き方…いわゆるブラックな働き方…が問題となって来ました。

いわゆる「電通事件」を契機に、就職を希望する大学卒(学士)の間で「人間らしい働き方」を求めようとする動きが顕著となって来ました。

「就労時間」「休日日数」「最低賃金」と言った、働く人を尊重する考え方のある企業に関心が高まる中、公共性がありかつ諸法令で労働条件が厳密に規定されているタクシー乗務員への関心が、次第に高まった結果だと言われています。

事実ウチの学士入社社員に聞いても

  • 「友達が月50時間近く残業あるのに、ウチの会社は残業が全くない」
  • 「友達は休日に出勤するが、この会社ではそう言う事は一切ない」

と言う点で「タクシー乗務員は仕事がしやすい」とのことです。確かに、一勤務で21時間近く乗り続ける事は容易ではありません。

しかし、タクシー業界では「休日は間違いなく休日」です。加えて「勤務明け休み」もありますから、他業種の人から見れば羨ましい限りではないでしょうか。

副業OK!夢追い入社

日の丸交通夢追い入社

そしてもう一つ…大学卒(学士)の若者がタクドラを目指す考え方の中に「夢追い入社」と言う考えが、次第に増えていることが解って来ました。

⇒日の丸自動車グループの「夢追人募集」案内

大学時代にバンドや劇団の俳優でセミプロになった人が、卒業後も継続して活動したい…でも、正職は持ちたい…そういった人たちにとって、シフトの融通が利くタクシー運転手は、正にもってこいの職業なのです。

要するに、昨今の副業を先取りした考え方と言えますね。

えっ、私はどうかって?…ま、まぁ将来は作家や本格的WEBサイトのディレクターを目指しているので…ねぇ(汗)。確かに、一般の仕事をやりながらよりは、やり易いのは事実です。

タクシー会社が、大卒生をスカウトする事情

これまでは、就職したい大学生(学士)側から見たタクシー運転手の就職事情を見て来ましたが、採用する側のタクシー会社側にも、この2~3年大きな変化が起きているのです。

タクシー乗務員(運転手のこと)の採用年齢の下限は21歳の誕生日からです。つまり、若く優秀なタクドラを採用するのに、大学卒(学士)さんは最適であると言えます。

加えて、先にも述べた大学卒の若者の就職意識の変化が追い風となり、リクルートの電話でも…

  • (昔)「〇〇タクシーですが」→「ガチャ」
  • (今)「〇〇タクシーですが」→「少し話を聞かせて下さい」

と言う風に変わって来ている…とは、ウチの会社の採用担当(学士入社第一期生)の話です。喰い付きが良くなった分、じっくり選んで優秀な若者を取れるチャンスが増えた訳ですね。

そして、大学卒(学士)採用を急速に増やしたもう一つの理由に、この後お話する「タクシー運行の高度化」があります。

早速次の章へ入りたいと思います。

年々高度化するタクシー運行の実情と大卒生採用増加の実情

私が6年前に今のタクシー会社に入りました。その頃の料金決済の方法は

6年前の決済方法4種類

  • 現金
  • スイカ等の交通系IC
  • クレジットカード
  • タクシーチケット

だけで、機器の操作に慣れるのに、時間はそう掛かりませんでした。

ところが、この6年の間に、タクシー料金の決済法は劇的に変化を遂げたのです。それを推し進めたのは、IT技術…要するにネットを使ったキャッシュレス決済の浸透です。

日本交通系のネット決済システム「Japan Taxi Wallet」では、乗車予約時に同時にネット上での決済指示を入力して乗り込む場合と、乗車中に客席全部のタブレットを起動し、そこからネット上での決済を申し込むパターンの2つで、キャッシュレスで支払いを掛けることが出来ます。

⇒日本交通系ネット決済システム「Japan Taxi Wallet」の仕組み

こうした決済システムを乗客が掛けてきた場合、タクドラはいくつもの複雑な操作を経て、決済の確定を行う必要があります。

内容は社外秘なので詳しくお話出来ませんが、これに「空港定額処理」や「障碍者割引」が加わったりすれば、支払い方だけで幾つものレアケースを想定しておく必要もあり、私でも正直レアケースに出くわせば、操作マニュアルを引っ張り出さないと解らないことさえあります。

決済の操作方法も去る事ながら、これも以前お話した通りインバウンド経済政策の進展で、外国からの訪問客が急増し、それに比例する様に外国人のタクシー利用客は、毎年倍々ゲームで増えています。

こうした外国人利用客に、英語を始め諸外国語で対応出来るタクドラ育成が急務とされており、IT決済操作と併せ、頭が柔軟な大学卒ドライバー採用急増の背景となっています。

ジェネレーションギャップ真っただ中?のタクシー会社

日本交通でも、4年前から大学卒(学士)乗務員の採用が始まり、今では内勤(幹部候補生)に入って行った人も含め、社員全体の一割を超えるまでに占めるまでになりました。

しかし、世代が変わっていく事は、それだけ私も含めたおじさん達との軋轢が起こる事…今、東京都内のタクシー各社では、そう言ったジェネレーションギャップが結構起きているみたいです。

以前チェッカーグループの紹介で登場頂いた、加盟社の60代のベテランドライバー氏は、

「ウチにも若い奴が入ったのはいいが、何だか自己中で人の話も聞きやしない。」

とボヤいておられました。

またkm(国際自動車)に居られる私の会社の先輩氏は、

「無線の優先権など、若手に優先されている。ベテラン乗務員を蔑ろにする行為だ」

と怒っておられましたね。

確かに若い世代が増える事で、我々ベテラン陣の既得権益が脅かされるのは、余り快い思いはしません。

しかし、我々も養成採用されてしばらくは「会社におんぶにだっこ」(と言っても、私は保証給初月からノルマクリアして来たぞ)でしたから、まぁそう目くじらを立てる必要はないと思います。

強いて言えば、最近の若者は自己主張が強すぎて周りが見えていない(悪い意味で迎合しろと言う意味ではない)ので、よく状況を精査してからモノを言う様にすればいいかもしれませんね。

タクシーは業界全体が変わっている時期

タクシー運転手へのイメージも変化している

如何でしたでしょうか?

日本の全産業を見渡しても、これほど大卒などの若者に注目され、しかも業界全体が激変しているところは、タクシー業界を除いてないと言えますね。

私もしっかりしないと、若手に決を蹴り上げられて、今度こほ本当のホームレスになるかも(汗)



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今年6年目の乗務員生活を謳歌している現役タクシードライバー。1967(昭和42)年生まれ。2013(平成25)年日本交通系タクシー会社のドライバーとなる。黒タク資格&スリースター(最上級乗務員)資格所有。