60歳を超えたタクシー運転手の定年について

人生100年時代っていうけれど?

最近、「人生100年時代」という言葉をよく耳にします。

英国のある学者が発表した、「先進国では長寿化が進み、2007年生まれの子供の50%が100歳を超える」という予測のことです。

政府も安倍首相を議長とする「人生100年時代構想会議」を設置するなど、本格的に動き出しています。

厚生労働省の「平成29年簡易生命表」によれば、日本人の平均寿命は男性が「81.09歳」、女性が「87.26歳」で、過去最高を記録したとのことです。

100年には少し足りませんが、日本も確実に「長寿社会」へと向かっています。

「人生100年時代」は、「長い老後」と同義語だと言えるでしょう。十分な蓄えがあればあまり心配もありませんが、中々そうはいきません。「老後2000万円問題」が世間を騒がせたのも分かる気がします。

「老後」を考えたとき、「定年」というキーワードがあぶり出されます。

タクシー運転手にも定年はあります。ただ、一般企業と違うのは、同じ会社・同じ業界で長く働ける仕組みがそこにあることです。

60歳を超えたタクシー運転手が、定年を間近に控えて、どう老後に備えるのか?そこには様々な人間模様が交錯します。

杖をついていても、運転はできる?

厚生労働省「就労条件総合調査」(平成29年)によると、95.5%の企業で定年制があり、そのうち定年を60歳とする企業は79.3%で、65歳とする企業が16.4%となっています。

日本では、60歳定年が一般的と言えるでしょう。

それに対してタクシー業界は、65歳定年がスタンダードではないでしょうか?私の会社も定年は65歳です。

ちなみに個人タクシーの場合は、個人事業主なので、事業許可の期限更新が75歳以降は更新できないため75歳が定年となります。

一般企業はもとより、タクシー会社にも再雇用制度はあります。が、その意味合いは少し違うような気がします。

誤解を恐れずに言えば、一般企業は「定年したけど法律があるから、雇ってあげます」的なニュアンスを感じます。当然、給与も現役時代より大きく下がることが、ほとんどだと思います。

タクシー運転手の場合は、「えっ、定年!冗談じゃないよ、もっと走ってよ!」と、当たり前のように会社側が再雇用の手続きに入ります。その時の健康状態・事故や違反の経歴などが考慮されますが、特に問題点がなければ、ほぼ同じ状態で再雇用されます。

私の会社の場合は、嘱託社員として1年刻みの契約となり、健康状態や視覚をクリアすれば、75歳までタクシー運転手を続けることができます。

これは、会社側の温情と言うよりも、業界の人手不足の賜物とも言えますが…。

現役時代と同じようにフルで働くもよし、年金がたっぷりあるならアルバイト的に働くこともできます。まさに、「ライフワークバランス」の実現ですね。

中小は、無事故無違反の優良なタクシー運転手なら80歳まで雇用するみたいなので、75歳を過ぎてから移籍するタクシー運転手もいるみたいです。

私が気になっている人にいつも杖をつき、おぼつかない足取りで、階段を昇り降りする70過ぎのベテラン運転手がいます。班長曰く、「あの人は月3回しか乗らないのよ!(笑い)」、とのことでした。

高齢化は、事故のもと?

車を運転することは、ある意味、簡単なことだと言えます。特にオートマ車は、基本的にアクセル、ブレーキ、ハンドルしか無い訳ですから。

でも、毎日のように交通事故が起き、特に最近では高齢者の事故がクローズアップされています。

交通事故総合分析センターがまとめた事業用自動車の交通事故統計(平成27年版)による、定年後のタクシー運転手(ハイヤー含む)の事故率を年齢別に見ると、60歳~64歳は21.4%、65歳~69歳 は25.6%、70歳~74歳は12.5%、75歳以上は3.7%となっています。

なんと、タクシー運転手の60代以上の事故率は63.2%です。

最近でも、今年の6月に千葉県の某駅前で80歳のタクシー運転手が、アクセルとブレーキを踏み間違えて歩道に突っ込む、という事故がありました。

世間から「定年になったら、さっさと引退しろよ!」という声が聞こえてきそうです。

でも、私の実感としては、少なくとも私の営業所では、高齢のタクシー運転手の中に危なそうな人は見当たりません。逆に、勤続30年以上で無事故無違反を続けているタクシー運転手が、何人もいます。

運転には「適正」があり、何度も事故や違反を繰り返す人がいます。そのために定年を前に辞めていった人も、何人か見ました。事故統計は無視できませんが、年齢だけで判断するのは如何なものかと思います。

私が「これぞ、タクシー運転手!?」と思ったのは、個人タクシーの運転手が、骨折でもしたのか左足にギブスをはめながら仕事をしている姿を見た時です。当然、運転の時は外して、トランクに入れていましたが。

必要に迫られてのことかもしれませんが、あんな状態でも仕事ができるんだと、感心したのを覚えています。

「定年」よりも「年金」?

60過ぎのタクシー運転手が集まると、必ずと言っていいほど年金や、病歴自慢の話に花が咲きます。

定年のことなど、まるで眼中に無いかのようです。逆に、定年後に年金を貰えるようになったらどんな働き方をしようか、年金をどう使おうか、という想いに気持ちが飛んでいるように感じます。

定年になるのを待ち望んでいると言ったら語弊がありますが、少なくとも定年を不安には思って無いようです。タクシー業界は常に人手不足なので、よほどのことがない限り放り出されることはない、とよく承知しているからでしょう。

そして、嘱託社員は営業所にとっても便利な存在で、当欠が出た時や、事故などで車が動かない時の調整弁的な役割を担っています。「勝手知ったる我が家」、ですから会社側も使い勝手がいい訳です。

また、タクシー運転手側も「俺たちは会社に頼まれて、乗ってやってるんだよ」、という気概があるように思えます。若い班長などは孫みたいなものですから、言いたい放題言われて、何時も苦笑いしています。

定年を過ぎたタクシー運転手の方が偉く見えるのは、私だけでしょうか?


<広告・PR>
免独斎
東京都在住 60歳 タクシー運転手。既婚 子一人。 務めた会社が倒産した経験を2度する。様々な職種を経て、パチンコの店長からタクシー運転手へ。モットーは無事カエル。性格は面倒くさがり屋。趣味は読書とお酒、寝ること