タクシー運転手の募集説明会などに行くと、隔日勤務、という一般企業ではなかなか耳にしない四字熟語が発言されます。
説明資料を読むと、所定労働時間15時間半、などと書かれていて、驚きおののく人は少なくありません。
しかも、その時間とは別に休憩を3時間までとる等と付記してあったり、親切な会社では、遅くとも出庫後20時間以内に会社へ戻ってくるように、と注意書きがあったりして、資料を読み進めるほどに、驚きはどんどん大きくなります。
一見きつそう、大変そうに思える隔日勤務ですが、タクシー運転手には人気の勤務形態です。
では実際どのような働き方でどのように働きやすいのでしょうか?
この記事では、タクシーならではの勤務形態、謎と不信感が深まるばかりの「隔日勤務」について、詳しく説明していきます。
この記事の目次
タクシー運転手の働き方「隔日勤務」とは?
隔日勤務は、1回の勤務を、48時間として考えます。つまり、2日間で1回の勤務とするのです。
普通は1日24時間、所定労働時間が8時間の企業が多いですが、これが、1回48時間、所定労働時間15.5時間、となります。
8×2は16ですが、負担を考えてやや少なくしているタクシー会社が一般的です。
つまり、決して極悪な長時間労働ではありません。むしろ、やや少ないくらいなのです。
一般的な企業の正社員は、土日休みだとすると31日月で23日間出勤することとなりますが、隔日勤務のタクシー運転手の場合は、出社するのは月12回程度となっています。
実際には半勤日等を設けている企業もありますので一概にはいえませんが、1回で2日間にわたるとすると、単純計算で12×2の24日間仕事することになるわけです。こちらは一般企業よりやや多めとなります。
総合すると、所定労働時間は少なめで出勤日数は多め、ということになり、結果的には一般企業と同じようなものになるのです。
タクシーが抱える、交通手段としての弱点
ここでタクシーという交通手段の弱点について考えましょう。
タクシーは電車やバス等と違い、貸切等の特別な契約がない限り、運行経路や降車場所などは決められていません。お客さんの希望に沿い、あらゆる降車地へ輸送する自由度の高い交通手段となっています。それゆえに、料金はバスや電車等と比べて著しく高額です。
そのためタクシーは、バスや電車が頻繁に運行しているような地域では、お客さんの獲得が後手に回ってしまいます。一般的な金銭感覚のお客さんは、日常の交通手段での贅沢は慎みますから、多少不便でもバスや電車を利用してしまうのです。
隔日勤務の定着で弱点を克服
タクシー業界が電車やバス等に負けないためには、この両者が運行を見合わせている時間帯まで、運行を継続する必要がありました。つまりは深夜や早朝が、タクシーの最も活躍できる時間帯となっていたのです。
そして、タクシーの給与体系の多くは出来高制に近く、運転手本人の売上によりますから、運転手さん個人としても、深夜と早朝の両方で運行できる方が、高収入を見込めます。
そこで確立されたのが隔日勤務なわけです。隔日勤務の運転手さんは、出庫してから少なくとも18時間くらいは、街中で過ごすこととなります。
朝6時30分頃、まだバスが十分な本数の運行を開始していない時間帯に出庫すれば、その18時間後は翌朝0時30分、地域によっては終電を逃したお客さんが流浪している時間帯です。少し残業することになりますが、そのお客さんを乗せて最後に売上を作る、といった乗務スタイルをとれば、深夜と早朝の両方を運行できるのです。
もちろん、隔日勤務は厚生労働省にも認められており、その存在自体には違法性はありません。
「隔日勤務」以外の日勤と夜勤について
もちろん、隔日勤務以外の短い時間の勤務体系もあります。①昼勤 と ②夜勤 です。
隔日勤務による生活リズムの乱れを気にする方は、このどちらかを選ぶと働きやすいでしょう。
まず、昼勤は一般的なサラリーマンの出社・退社時間と相違ないと思っていただいて構いません。タクシー運転手のため少し朝は早くなっていますが、大体のタクシー会社で多いのが 7時~16時、8時~17時の労働です。
退社が16時、17時となるとかなり早く家に帰れますので、特に主婦の方、家での時間を大切にしたい方が選ぶ傾向にあります。家に帰ってから子供の夕飯をつくったり、趣味に費やす時間にしたりと、夜の時間帯を自由に使えますよね。
ただ、女性ドライバーなどで昼だけの乗務希望する方はおりますが、昼間は稼ぎにくくあまり人気がありません。
休憩時間は最低1時間と決まっています。
一方夜勤の方は、昼勤が退社する17時、18時から稼働する勤務形態です。大体多いのが、17時~翌日2時、18時~翌日3時といった時間です。
昼勤と勤務時間はほとんど変わらないですよね。夜勤は終電を逃した人や、酔っぱらいのサラリーマンを乗せることができるので売り上げも伸びやすいです。
休憩は昼勤と同様、最低1時間取る必要があります。
しかし夜日勤については、タクシーでの営業に慣れてきたら挑戦してみるのもいいでしょうが、他業種から転職してきた場合のデビュー戦は、やはり隔日勤務を推奨します。
それは、隔日勤務には次のようなメリットがあるからです。
「隔日勤務」を選ぶ3つのメリット
メリット② 休憩時間の幅が大きい
メリット③ 稼ぎやすい
メリット① まとまった休みがとりやすい
隔日勤務のメリットはなんといってもまとまった休みがとりやすいところです。
1日の出勤を終えた次の日は、必ず「明け休」という休みを取ることになっています。
ほとんどのタクシー会社で多い出勤スケジュールが、出勤→明け休→出勤→明け休→公休→出勤 といったものです。
2日連続のお休みが週に1回取れる仕組みとなっています。
もし指定休を自分で取った場合、簡単に3連休がつくれますよね。
引用:一般社団法人 全国ハイヤー・タクシー連合会 「TAXI TODAY JAPAN 2018」
隔日勤務であれば、月曜の朝出勤して、火曜の夜明け前に帰宅し、次の出勤は水曜の朝、といった具合ですから、少なくとも火曜の夜から水曜の早朝まで爆睡できます。冬場であれば、火曜の朝日を見ることなく、暗いままの寝室で昼過ぎまで眠ることも出来ますから、体の負担は段違いに軽いです。
将来的に夜日勤を目指すとしても、まずは隔日勤務から入って、早朝と深夜の労働を少しずつ経験してみるべきでしょう。
メリット② 休憩時間の幅が大きい
夜日勤における休憩時間は、一般企業の日勤と同様に、1時間とされているのが普通です。労働基準法の第34条には、「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と記されています。
この条文に従えば、隔日勤務についても、休憩は1時間だけ与えれば良いということになりますが、さすがに業界ではそのように考えてはいません。
二日分働くことになる隔日勤務では、過労運転防止のためにも、休憩時間は3時間程度が望ましい、とされています。夜日勤では一日分働いて1時間の休憩ですから、その1.5倍も休めることになるわけです。
隔日勤務は車内で拘束される時間が長い分、途中のお休みもゆったり取れるように配慮されています。緊張しがちな新人の運転手さんには隔日勤務が向いている理由は、こういったところにもあるのです。
メリット③ 稼ぎやすい
先程もお伝えしましたが、はやり隔日勤務は稼ぎやすいです。
出勤に急ぐサラリーマン、営業で移動するサラリーマン、飲み会終わりの人たち、終電を逃した人たちなど、1日中乗客を狙って行動できます。
稼ぎにくいなという時間は休憩を取ることも可能ですので、自己判断で効率よく働けるでしょう。
何より稼ぎやすい夜間には特に気を配って乗客を見つけるようにするなど、工夫や努力を続けることで、年収600万円のタクシードライバーになれる日もそう遠くはありません。
辛そうで楽、縛られそうで自由な「隔日勤務」
休憩や勤務ルールは会社ごとに異なるので面接で要確認
早朝や深夜に走り回らなければならないことが多いタクシー運転の仕事ですが、隔日勤務であれば、夜間の睡眠も確保できますし、途中の休憩時間も一般企業よりも長く、実はかなり良心的です。「最低15時間も働くの!?」と目を逸らさずに、じっくり労働条件を確かめてみてください。
「そんなこと言って、現実にはちっとも休ませてくれなかったりするんでしょ?ブラックな業界なんでしょ?」と決め付けるのは性急です。これは正直、企業によります。
浅はかな経営者は、「停まっているタクシーはお金を生まないので、ずっと走らせて儲けたい」とばかり考えますが、疲労困憊して大事故を起こされては、無線やチケットの取引先を多数失う契機となってしまいます。タクシー運転手さんには適宜休んでもらって、質の高い運転と接客を維持してもらった方が、経営もうまくいくのです。
優良なタクシー会社であれば、休憩も公休も、もちろん有休も適切に取得できますので、是非説明会に足を運んだり、そのタクシー会社のタクシーにお客さんとして乗ってみたりして、会社を吟味してみてください。