タクシー運転手は深夜も働くまるでブラック企業?いやいや他の業界と一緒です

こんにちは、業界準大手規模の会社でタクシー運転手さんの勤務体系を管理していた、野の字です。

大都市を朝から晩まで走り倒しているタクシー運転手ですが、いつ休憩しているのか、というか休日はちゃんとあるのか、いざタクシー運転手に転職してみようと考えた時に、ちょっと心配になりませんか?

求人票を見ても「変形 1ヶ月単位」とだけ書かれていてよくわからないし、勤務時間が朝から夜とか夜から昼とか、結局24時間働かされてもう二度と家に帰れないのではないかと、少し恐怖を覚えるほどです。

この記事では、タクシー運転手の労働時間や勤務日数等について説明していきます。結論からいうと、一風変わっているだけで、勤務時間は一般的な企業と同じです。

基本的なタクシー運転手の勤務体系は2つ

タクシー運転手の仕事の勤務体系は、次の2種類に分けられます。

  • 隔日勤務 ……正社員で月11~13回出勤(回数は企業により異なる)
  • 夜(昼)日勤……正社員で月22~23回出勤( 〃 )

タクシー運転手には、正社員と定時制(パート・アルバイト)の別がありますが、定時制は正社員に比べて乗務数が少ない、社保加入がない、といった程度の違いですので、今回は割愛します。次項より1つずつ説明していきます。

隔日勤務~これを制する者は人民の流れを制す~

何も知らずに求人広告をみてタクシー業界に就職したら、まず隔日勤務という勤務体制に驚くかもしれません。隔日勤務は、月に10回くらい会社に来れば良い、という大学のサークルみたいな勤務体系。タクシー乗務員が変わった職業である大きな理由の1つです。

1回の所定労働時間は、タクシー会社によって差異はあるものの、おおかた15時間30分ほどです。1日24時間、医者からは8時間の仮眠が奨励されていますので、起きている16時間のうち、ドライバーの自由時間(休み時間)は僅か30分となる計算です。これを月に12回も繰り返さなければならない運転手は、仕事とはいえ奴隷でしょう。

勿論そんなことは現実には不可能。種明かしを急ぐと、隔日勤務で働くタクシー運転手の1日の実態は、一般的な社員の2日間にまたがっています。1回の乗務というのは、48時間以内で15時間30分を労働時間に充てて下さい、という理屈。

ドライバーが出勤する48時間のうち、睡眠時間が8×2日分で16時間、仕事……運転している時間と待機時間が合計15時間半、とすると残りは16時間半となり、1日8時間15分ずつ余暇があります。

これを一般企業に当てはめると、所定労働時間8時間、睡眠8時間、残り8時間ですから、毎日定時で帰れる仕事とほぼ大差ありません。1回の出勤あたりの拘束時間こそ長いものの、出勤日数自体は11回。一般企業に直すと22日間の労働、ということになりますから、週休2日の会社とほぼ同じになります。休日の数は多く休みの時間も長い。さらに残業時間がないため、一般企業よりも社員への月トータルの拘束時間は短いかもしれません。

隔日勤務の面白さは、乗務に慣れてくると、人々の毎日が手に取るようにわかってくることです。隔日勤務のドライバーは、朝出庫してから15時間30分、実は休憩を3時間とるように労基署より指導されていますので、結局は18時間以上をタクシーと一緒に外で過ごします。日が出てから沈み、終電が無くなるまで、適宜休憩を挟みつつ街中を運転します。

どこかに毎日通う人々には、ルーティンワークというものが自然と成立するもの。例えば、駅のタクシープールで並んでいれば、毎週火曜日の夕方、電車を降りたら駅前のコンビニに寄り、夕食を買ってからバスに乗って帰る、という人がいる、と気付くようになります。

そして、もしある火曜の夕方にその人が店に来なかったら、即ちそれは飲み会か何かがあるということだから、数時間後に繁華街付近まで行けば、その人から手が上がり仕事になるといった作戦行動もとれます。タクシードライバーならではの思考であり、タクシー ドライバーならではの仕事の仕方でしょう。

隔日勤務は、常に目を光らせておけば他人の人生を垣間見ることも出来るし、それを上手く駆使すれば売上も増やすことも出来る、という他業種にない魅力がある勤務体系。休み時間や休日も多いため、人によってはおすすめできます。

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夜(昼)日勤勤務~得意分野に絞って稼ぐ~

日勤のドライバーは、一般の会社員とほぼ同じ勤務体系で仕事をします。出勤して7~8時間程度の所定労働時間を運転して、次の日の同じ時間にまた出勤して運転という、ごく普通の生活です。

夕方もしくは夜間に出勤して翌朝に帰庫する夜日勤(一般的な夜勤)と、早朝に出社して夕方には運転から戻ってくるという昼日勤の2つに分かれていますが、主流は夜日勤で昼日勤のドライバーは比較的少数派です。

夜勤のドライバーは、深夜バスや電車が終了した時間、まさにタクシーが交通機関の王となる時間帯を毎日運行することが出来る為、2日に1回しか深夜帯を走れない隔日勤務よりも多くの月給……高収入が見込めます。ただし、夜勤に乗せる客は酒が入って気が大きくなっていることも多く大変。接客には注意が必要です。

また、夜の時間帯に仕事をしていますから、日中に自宅で睡眠をとることになり、昼夜逆転の生活となります。休日も生活時間は戻らないでしょうから、体調面のケアにも細心の注意を払わなければなりません。友人や家族と休みが合わない心配もあります。

昼日勤は、運転が丁寧で病院や介護施設などの法人への送迎が得意な運転手に向いています。評判が良いドライバーは患者さん等が個人的にリピーターとなってくれることも。自分の携帯電話に直接配車依頼をしてくれる、といった固定の仕事が得られる状況になれば安定して稼げる勤務形態。また、仕事中に酒酔い客に出会うリスクも少なめですので、酔っ払いのあしらいが苦手な女性ドライバーも安心して運転できます。純粋に運転だけしていれば良い日も多いです。

ただし、お客さんの絶対数が少ないので、上述のリピーター等がないと、夜日勤や隔日勤務より仕事量が少ないので、月の収入や年収は伸びづらいでしょう。休日は普通に取れますので、収入はそこまで多くなくても一般的な仕事のように仕事をしたい人向けです。

夜日勤は、高収入が見込めることからタクシーの仕事の花形と見做すタクシー会社があります。先輩運転手のプライドを守るため、新任運転手がいきなり夜日勤の運転手になることは出来ない、といった制限を設けている企業もあるほど。

また、昼日勤の制度自体を採用していないタクシー企業や、制度はあっても相番がつけられない等の理由で昼日勤を認めないタクシー会社もあります(相番については次の項で説明していきます)。いずれにしても募集要項を確認するべきです。

夜日勤、昼日勤ともに、その時間帯が最も自分に合う、という所謂エキスパートに向いている勤務形態です。夜日勤は基本給が高く賞与も多く望めるから、という言葉に踊らされて、毎日酔っ払いに値切られ続けていたのでは話になりません。そして、施設の場所や休診日・公休日も知らないのに昼日勤となり、毎日誰もいない真昼の住宅街を流し続けるのは時間と燃料の無駄という他ありません。

これからタクシードライバーを目指すなら、まずは人々の流れ、駅や病院、繁華街が最も盛り上がる時間、といったものを的確に把握できる隔日勤務から始めるべきです。その後、得意分野に合わせて日勤スタイルに変更していくのが良いでしょう。

相番~前任者にして後任者、表裏一体の仲間~

個人プレイはいけません。

前述のとおり、タクシー運転手の休みは結局世間一般とほとんど同じです。しかしタクシー会社からすると、運行さえすれば売上が見込めますから、整備の時間を除けば自動車が休み無く稼動しているのが理想です。

そのため、運転手Aさんが帰庫、帰宅した後は、間髪入れずに運転手Bさんが出社して車を運転する、というタイムシフトが多くの企業で実施されています。AさんとBさんの出社時間、帰庫時間を把握しておき、交互に同じ車に乗せて効率よく車両を稼動できるようにシフトを組むので、Aさん、Bさん共にいつも同じ車両を使用することになります。これが「相番」といわれる関係です。

運転手Aさんは帰庫後、洗車や整備、片付けなどをし、自分が休みの間に運転手Bさんが気持ちよく出庫できるようにお膳立てをし、Bさんも翌朝帰庫後、Aさんが出社する前に車の掃除をして、Aさんに綺麗な車両を手渡す、というクリーンな関係が必要になります。

シフト上、ドライバー同士はお互いがすれ違うように設定されていますので、運転手Aさんと運転手Bさんが、顔を合わせることはほとんどありません。しかし、良好な人間関係の構築はどこの業界でも不可欠。自分が休みの間に相手に気持ちよく働いてもらうために、AさんもBさんも見えない相手を気遣う必要があります。

我侭な新人運転手、Aさんの実体験をご紹介します。Aさんは、いっぱい売上をあげて給料を稼ぎたい、と目先の賃金ばかりに目を取られて意気込んでいた為、相番のBさんを気にかけず、出庫してから翌日の昼まで営業してしまいました。

すると、Bさんの休み明け……出社する時間になっても、車が戻ってきていないため、Bさんには乗る車がありません。運行管理者は、慌てて別の車をBさんにあてがいますが、急な話なので、ずっと車庫に眠っていたポンコツを配車することになりました。Bさんは、ブレーキが軋みタイヤも減っている煤だらけの車で、しかも出庫前に洗車等の掃除をしてから出かけねばならないのです。Bさんにも養うべき家族があり、好成績を上げたかったのですが、仕事前にもうヘトヘトです。

タクシーはドライバー個人の裁量が大きい仕事ですが、上記のような事態に陥らないように、同僚を思いやる姿勢も必要です。良い関係を気付くと交流が始まり、営業上のテクニックや優良顧客が集まる穴場を教えてくれて、効率良く運転できるようになるかもしれません。

因みに、昼日勤と夜日勤を組ませる、というかたちで、日勤者にも相番が付けられることがあります。しかし昼日勤者の絶対数が少ないため、あまり多いスタイルではありません。

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タクシー運転手は1にも2にも生活リズム

3,4お好きに5は相番

隔日勤務も夜日勤も、夜通し路上で運転することになりますから、ドライバーはデスクワークよりも体調管理に気をつける必要があります。求人票ではわかりにくいですが、休日については一般企業と同様に確保できますので、安心して頂ければと思います。

そして、タクシー運転手になったら是非、次に乗る運転手のことを思いやってください。情は人の為ならず……。野の字でした。



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20代でタクシー業界に飛び込み、運行管理者として業界準大手の会社に就職。タクシー運行管理の他、交通事故処理や苦情対応、本社に異動してからは新人研修等も任されるようになり、タクシー関連業務の多方面で活躍。顔も名も明かせない恥ずかしがり屋